ABAS Article List 2015 in APA Style


Ogami, M. (2015). The false S-curve shaped by licensing agreements. Annals of Business Administrative Science, 14(6), 351-364. doi: 10.7880/abas.14.351 Download (Available online October 25, 2015)

Foster (1986)によれば、技術進歩はS字型を描くとされる。しかし、板ガラス成形技術のフロート法で成形可能な厚みの進歩を見てみると、グラント・バック条項のあるライセンス契約が技術進歩のS曲線を形作っていることに気がつく。具体的に、ライセンス初期においては、ライセンシング・コミュニティ内で、ライセンシー間の開発競争がはじまり、成形可能な厚みの進歩が加速する。しかし、特許の期限切れを意識するようなライセンス末期においては、 特許の期限切れ後、自由な技術開発競争が始まった際に他社を出し抜くため、グラント・バック条項の下では、研究開発は抑制されてしまうと考えられる。そのため、技術の進歩が止まったように見える。しかし、実際には、これは自然法則に基づかない疑似S曲線であり、事実、フロート法の場合には、特許の期限切れの後、急激な技術進歩が再開する。

Inamizu, N. (2015). Impact of change in office layout on employees' communication satisfaction. Annals of Business Administrative Science, 14(6), 335-350. doi: 10.7880/abas.14.335 Download (Available online October 11, 2015)

本研究は、オフィス・レイアウトの変更を行ったX社での調査結果をもとに、オフィス環境とオフィスでのコミュニケーションの満足感との関係を検討するものである。X社では、コミュニケーションの活性化と働きやすいオフィス環境づくりを目的として、オフィス・レイアウトの変更が行われた。具体的には、執務スペースの変更というよりも、十分なミーティング・スペースの確保というものだった。調査の結果、(1)コミュニケーションのしやすさの点でオフィス環境への評価は改善し、(2)オフィスでのコミュニケーション満足度も、やや限定的ではあるが、改善傾向が見られた。(3)一方、同じオフィスにいながら、職種によって、コミュニケーション満足のためにオフィス環境に求めるものが正反対といっていいほど異なっていることも明らかとなった。このため、オフィス・レイアウト変更によるコミュニケーション満足の改善が限定的なものにとどまった可能性があることが示唆された。

Sato, H. (2015). Organizational change and temporal myopia. Annals of Business Administrative Science, 14(6), 323-333. doi: 10.7880/abas.14.323 Download (Available online September 27, 2015)

組織変革を行う際に、マネジャーには抵抗を取り除く役割が求められる。そのため、これまでの研究では十分なパワーを持ったマネジャーが組織変革の必要性を認識し、変革を推進することが重要であると指摘されてきた。しかし、それだけでは不十分である。本稿では、日本の自動車ディーラーX社で同じようなパワーを持つ二人のストア・マネジャーによる組織変革の比較調査を行った。その結果、組織変革に成功した店舗ではストア・マネジャーが長期的視点を持ち、プロセス志向であった。これに対し、ストア・マネジャーが短期の結果志向を残していた場合には、店舗は時間の近視眼に陥り、組織変革に失敗していた。近視眼は常に問題となるわけではないが、営業組織のような成果が数値化しやすく、フィードバックが早い組織で組織変革を進める場合には障害となる。

Yamashiro, Y. (2015). Implied contract: Birth and rebirth. Annals of Business Administrative Science, 14(6), 309-321. doi: 10.7880/abas.14.309 Download (Available online September 13, 2015)

Rousseau (1989) は、心理的契約を再定義して定量分析を可能とした研究として知られている。その際に、暗黙的契約と比較対照させることで、心理的契約の概念を明確化した。その後、心理的契約に関しては、調査や概念深化が進んだが、暗黙的契約に関しては、Rousseau自身も言及しなくなってしまった。しかし、客観的に観察可能な互恵的パターンである暗黙的契約は、実務的には実質的な契約であり、明文化されていなくても裁判等では契約とみなされる可能性が高い。また、暗黙的契約を違反した際に、契約解除的反応を引き起こすので、その存在をより明確に確認できる。そこで本稿では、心理的契約と暗黙的契約の相違を改めて整理するとともに、本来、暗黙的契約として分類されるべき事象を明確にする。

Oki, K. (2015). Knowledge-intensive mother factory: How can a mother factory support foreign factories without mass production activity? Annals of Business Administrative Science, 14(6), 293-308. doi: 10.7880/abas.14.293 Download (Available online August 30, 2015)

本稿は、量産活動を持たない本国拠点が、マザー工場として海外拠点の量産活動を支援できる可能性を、ミネベア株式会社の事例研究から検討するもの である。ミネベアの本国拠点は、量産活動から撤退した後も、海外工場から量産活動に関する情報を積極的に集め、量産に関する知識を蓄積し続けた。 活動を持たずとも知識を保有する「知識集約型マザー」となることで、海外拠点の量産活動を支援し続けることができた。事例から、本国拠点が活動の 範囲を超えた知識を保有することで、量産活動を持たなくても、マザー工場として海外拠点の量産活動を支援できることが明らかになった。

Iwao, S. (2015). Organizational routine and coordinated imitation. Annals of Business Administrative Science, 14(5), 279-291. doi: 10.7880/abas.14.279 Download (Available online August 2, 2015)

組織ルーチンという用語は経営学者等の組織論研究者の間で広く使われている。その源流の一つがNelson and Winter(1982)であることは頻繁に指摘されるが、同じ用語を使っていても、NelsonとWinterは進化経済学の単なるパーツとして組織ルーチンを使っており、経営学で使用される組織ルーチンの定義と概念的に大きな違いがある。たとえば、(a)一つの企業は一つの組織ルーチンをもち、(b)確率的な突然変異とその後の自然淘汰で組織ルーチンが変化し、(c)他の組織が持つ組織ルーチンは容易に自らの組織に移植できると考えられている。ところが、経営学的な視点で実際の企業を観察すると(a)一つの企業は多くの組織ルーチンをモザイク状に組み合わせて持っており、(b)意図的に組織ルーチンの創造・模倣・選択が行われ、(c)移植には調整コストが発生して容易ではない。組織ルーチン論の新たな枠組みとして近年注目されつつあるRoutine Dynamicsでも(c)の調整の必要性はあまり重要視されない傾向があるが、実際の組織ルーチンの変化を論じるには調整の観点が重要であることを、自動車製造業Company A がトヨタの生産手法を取り入れて失敗した事例から説明する。

Takahashi, N. (2015). Japanese work ethic and culture: A new paradigm of intrinsic motivation. Annals of Business Administrative Science, 14(5), 261-278. doi: 10.7880/abas.14.261 Download (Available online July 19, 2015)

Takahashi (2004)が唱える「日本型年功制」の要素のうち、「仕事の報酬は次の仕事」であるという説をWork-Work Theoryと呼ぶことにする。本稿では、日本企業で一般的に観察できるWork-Work Theoryのシステムについて、「仕事の報酬は給料」のWork-Pay Theoryと対比しながら、その特徴を明らかにする。(i)仕事に差が付くことで加速度的に昇進・昇給で差が付き、(ii)今の仕事に満足しないで現状打破の気概を持ち、(iii)上司は適材適所の人選をし、(iv)次の仕事で報いるために定期的人事異動を行い、(v)一緒に仕事をすることに投資することで企業成長を可能にした。(vi) Work-Work Theoryでは、仕事の内容を徐々に難しいものにしていくことで、内発的動機づけを実現する。それがわくわく感につながる。でなければ、内発的動機づけとはいえない。こうして、Work-Work Theoryは自己決定理論とは異なるアプローチで内発的動機づけを素直に実践することで、発想の大転換をもたらす。

Ohkawa, H. (2015). Deculturation: A secret of birth. Annals of Business Administrative Science, 14(5), 247-260. doi: 10.7880/abas.14.247 Download (Available online June 21, 2015)

比較文化心理学で有名なBerry modelは、(1)伝統文化の保持と、(2)より大きな社会との関係に関する二つのyes-no型質問によって、accultulationのパターンを四種類に分類する。その単純明快さ故に、経営学を含む様々な研究領域で適用が試みられてきた。しかし、(i) “deculturation (marginalization)” の実現可能性、(ii) “integration” の多義性、(iii) 四つのセルの独立性に、疑問が投げかけられている。実は、そうした問題点は、Berry model誕生の過程に起因している。もともとBerryは、少数民族の個人を対象にした調査で用いた、24の質問項目を、assimilation, integration, rejectionの三つのラベルで分類し、さらに、それらラベルの特徴を二つの質問のyes-noで整理する際に、4つめのdeculturation (marginalization)を加えて、それをBerry modelの原型prototypeとしたのであった。

Akiike, A., & Iwao, S. (2015). Criticisms on "The Innovator's Dilemma" being in a dilemma. Annals of Business Administrative Science, 14(5), 231-245. doi: 10.7880/abas.14.231 Download (Available online June 7, 2015)

Innovator's Dilemma (Christensen, 1997) が1997年にChristensenによって発表されて以来、多くの研究から引用されている。引用している研究の中には、dynamic capabilityやambidexterity、market orientedのような概念を援用することで、innovator's dilemmaをもたらす環境の変化を乗り越えられると主張するものもある。しかし、それらの研究は、(a)コンセプトの提示のみで、反例としての事例の提示がないもの、(b)事例が提示されてはいても、そもそも「トラジェクトリの分断」が生じたことを論証していないもの、に大別され、論理的に反論になっていない。Innovator's dilemmaを乗り越えた事例を提示するためには、まず、「トラジェクトリの分断」が起こっていたことを論証した上で、次に、その環境の変化を乗り越えた事例を提示する必要がある。ただし、Christensenの「トラジェクトリの分断」の概念に関してはその論証には疑問も提示されており、その論証自体が容易ではないことがわかる。

Fukuzawa, M. (2015). Competitiveness of Japanese electric and electronics factories. Annals of Business Administrative Science, 14(4), 217-230. doi: 10.7880/abas.14.217 Download (Available online May 24, 2015)

本研究では、日本の電機産業における97事業所(工場)を対象とした質問紙調査のデータを用いて、Fujimoto(2003)の枠組みにもとづき現場競争力と市場競争力を測定した。さらに、当該事業所における雇用状況についても調査した。その結果、日本の電機現場の強みとして、(1)日本の電機メーカーの現場は、自社の海外拠点に対して「製造コスト」を除いたすべての現場競争力指標において優れていること、(2)顧客対応力の高さが、市場競争力の主要な源泉であることが示された。一方、これらの現場が抱える主要な課題が、正規社員の年齢構成のゆがみであることも示された。将来へ向けた技能の受け手が少なく、同時にベテラン層の人件費が増加していく中で、その原資をどうやって確保していくのかについて熟考し、対策を打つことが喫緊の課題である。今後も日本の製造現場が優位性を獲得・維持していくためには、製造面での地道な能力構築や設計・開発力のさらなる向上、若手人材の育成が重要である。

Mukai, Y. (2015). The dynamics of the Komatsu way. Annals of Business Administrative Science, 14(4), 205-215. doi: 10.7880/abas.14.205 Download (Available online May 10, 2015)

従来、企業独自の“way”は、組織や個人にそのまま受け入れさせ、コントロールを強化する側面が強調されてきた。しかし、Komatsu Ltd.の事例では、wayを受け入れる側がwayを変化させた可能性がある。この事例では海外拠点の経営を任せる人材を育成し、競争力を向上させることが目的だった。しかし、way(The KOMATSU Way)を海外に浸透させる際、海外拠点側が、生産以外の部署でも理解できるように、それらの部署での例を追加し、その詳細な説明を加えて、単なる現地語化を超えてwayを変化させていた。こうしたwayがある種の組織ルーチンだとすると、この事例は、他部門や海外への展開が組織ルーチンの変化をもたらす可能性を示唆しているとも考えられる。

Yamashiro, Y. (2015). Conceptual expansion into organizational identity change. Annals of Business Administrative Science, 14(4), 193-203. doi: 10.7880/abas.14.193 Download (Available online April 26, 2015)

Albert and Whetten (1985) が提唱する組織アイデンティティの三つの基準は、これまで (a) central, (b) distinctive, (c) enduring、とそれぞれone wordで要約・引用されることが多かった。この(a)(b)(c)は、従来からのアイデンティティに対するイメージ、(a)唯一無二で、 (b)uniqueで、(c)時を経ても変わらないもの、を補強しており、たとえばsocial identificationの代表的業績であるAshforth and Mael (1989)でもそのように理解されている。ところが、Albert and Whetten (1985) が真に主張していたことは、(a)(b)(c)自体の大幅な拡張であり、(a′)宣言されるものであれば一つでなく複数存在していてもいい、(b′)他者と比較可能でself-classificationできればuniqueでなくてもいい、(c′)連続的であれば時が経つにつれて変化してもいい、とすることで、アイデンティティ概念の適用範囲を組織にまで広げ、組織アイデンティティの分析、特にその変化の分析を可能にすることだったのである。

Kim, H. (2015). How psychological resistance of headquarter engineers interferes product development task transfer to overseas units. Annals of Business Administrative Science, 14(4), 171-191. doi: 10.7880/abas.14.171 Download (Available online April 12, 2015)

多国籍企業の知識移転や現地拠点のイノベーションに関連して、本社組織内部に着目した既存研究はなかなか見当たらない。本社内のメンバーは海外子会社に対して積極的に知識や情報を移転しようとするはずだという暗黙の前提があるかのようだ。そこで本研究は、現地顧客対応に必要となる製品開発 タスクの海外移転が上手く進まない原因を本社組織内で探り、特に本社エンジニアの心理的抵抗に着目する。日系自動車サプライヤー1社の深層事例研究から、まずは、本社エンジニアが直面する3つの問題: モチベーションの欠如、開発元の認識差、現地エンジニアの高い離職率を取り上げる。次に、この3つの問題から発生した本社エンジニアの心理的抵抗が、2つの経路: 情報共有・技術指導のモチベーション低下、コミュニケーション・チャンネルの不整備で、どのようにして開発タスクの移転を直接・間接に邪魔するのか説明する。新興国市場戦略に必要となる開発タスクの海外展開を促進するためには、本社エンジニアの心理的抵抗が発生する原因と結果をマネジメントする必要がある。

Kuwashima, K. (2015). Exploring the characteristics of pharmaceutical product development: A cross-industry perspective. Annals of Business Administrative Science, 14(3), 161-170. doi: 10.7880/abas.14.161 Download (Available online March 29, 2015)

医薬品の開発は極めて特殊だといわれる。しかし、他の産業と比較して何が特殊であるかは学術的にも、実務的にも必ずしも明確ではない。臨床試験は 医薬品開発の特殊性を象徴するものの1つだが、こうした産業固有の概念や用語を使っていては、産業横断的な比較はできない。そこで本稿では、産業間比較に適した汎用性をもつ問題解決モデルをフレームワークとして医薬品の製品開発プロセスを分析し、その特徴と有効なマネジメントを整理する。問題解決の視点で捉えれば、医薬品開発の特徴は、解の代替案の「創出数の多さ」と「テストの複雑さ」の両方を必要とされる点にある。どちらか一方を要求される製品・産業は他にもあるが、両方のケースは希である。そしてこの特徴は、医薬品の製品開発マネジメントとも密接に関係している。すなわち、製品開発コストを考慮すれば、「多数の創出」と「複雑なテスト」を同時に行うことは難しい。そこで製薬企業は、開発プロセスの上流では創出を、下流ではテストを重点的に行い、両者のバランスを切り替えることでこの問題に対応している。その切り替えのタイミングの判断は、医薬品開発の成果に影響する最も重要なマネジメントの1つである。

Inamizu, N. (2015). Perspective index of production workers: Analysis of "gemba capabilities in electrical and electronics industry". Annals of Business Administrative Science, 14(3), 147-160. doi: 10.7880/abas.14.147 Download (Available online March 15, 2015)

本研究では、日本の電機産業における97事業所の職場リーダー354名、製造作業者3116名から得られた質問紙調査のデータを用いて、見通し指数と職務満足、退出願望の関係について検討する。主にホワイトカラーを対象としたTakahashiらの一連の研究により、見通し指数は、職務満足とほぼ線形の正の関係が、退出願望とほぼ線形の負の関係があることが指摘されてきた。本研究により、製造現場のリーダーおよび作業者においてもほぼ同様の関係が見られることが明らかとなる。また、Takahashi (1997) と比較して、製造現場のリーダーの職務満足のレベルはあまり変わらないが、製造作業者の職務満足のレベルは一貫して高い傾向が見られた。さらに、製造作業者の退出願望のレベルは、Takahashi (1997) と比較して、一貫して低い傾向が見られることも明らかとなった。

Kosuge, R. (2015). Measuring market orientation in the context of service organizations: A context-specific study. Annals of Business Administrative Science, 14(3), 137-146. doi: 10.7880/abas.14.137 Download (Available online March 1, 2015)

市場志向に関する先行研究は、マネジャーを調査対象として市場志向の測定を行う。しかし、自動車ディーラー企業において組織文化の要素に焦点を当てるMKTORと、組織レベルの行動に焦点を当てるMARKORの2種類の尺度を用いて54店舗のマネジャーと販売員双方の市場志向を測定したところ、販売生産性と正の相関が見られるのは、マネジャー回答にもとづく得点ではなく、販売員回答にもとづくMKTOR尺度の得点であることが明らかになった。これは、サービスの文脈においては、前線の従業員の知覚を通じてとらえる組織文化としての市場志向が業績の説明要因となることを示唆している。実際、定性分析によれば、販売員が市場志向を知覚するということは、市場志向を価値観のレベルで咀嚼することを意味し、それが部門を越えた働きかけなど、オペレーションの改善に関する行動へつながり、結果として高い販売生産性がもたらされるというメカニズムが明らかになった。

Takahashi, N. (2015). An essential service in Penrose’s economies of growth. Annals of Business Administrative Science, 14(3), 127-135. doi: 10.7880/abas.14.127 Download (Available online February 15, 2015)

RBVの源流の一つであるペンローズの主張を正しく理解する鍵は、規模の経済性(economies of size)とは別概念としての成長の経済性(economies of growth)の概念の理解にある。ペンローズによれば、規模の経済性が働かないのに、規模に関わらず存在する「成長の経済性」があるとされている。しかも、それは本質的に一時的なもので、拡大が完了した時には消滅するとされている。ではそれは一体、どんな経営的サービスに当てはまるのであろうか? 本稿の結論的仮説は、未使用の立ち上げ屋的経営サービスが存在すれば、成長の経済性が生まれ、規模にかかわらず、企業にとっては成長の一歩一歩が利益を生むということである。

Takamatsu, T., & Tomita, J. (2015). Disruptive innovation: A case of full mold casting. Annals of Business Administrative Science, 14(2), 109-126. doi: 10.7880/abas.14.109 Download (Available online February 1, 2015)

Christensen and Raynor (2003)は破壊的イノベーションに関して、既存市場とは別の市場で新規に獲得していくNonconsumersと、既存市場におけるOvershot Customersの二種類の顧客を想定している。鋳造産業の大型鋳物市場において、顧客は鋳肌品質を求める。既に十分な鋳肌品質を実現していた木型を用いた砂型鋳造法に対して、新しく誕生したフルモールド鋳造法(FMC)は低い品質しか実現できなかった。しかしその市場の中でも、自動車金型鋳物は事情が特殊で、鋳肌は後から金型企業が調整を行うので、顧客は鋳肌の品質は落としても、納期が短くなることを歓迎した。木村鋳造所は、そうした短納期を望む一部の特殊顧客をまず獲得し、事業を継続する中で鋳肌品質・生産性を向上させていき、やがて自動車金型鋳物市場の過半を奪うことに成功した。こうして鋳肌品質を向上できたことで、より高い鋳肌品質が求められるミドルレンジの単品の工作機械用鋳物でも市場シェアを獲得し、さらに NC加工の完全機械化を実現することで、FMCが適用困難といわれたハイエンドの量産の工作機械用鋳物でも市場シェアを獲得した。こうして、 NonconsumersでもOvershot Customersでもない顧客がそれぞれ持っていた固有の要求を、ピンポイント的に突いて注文を獲得し、事業を継続する中で徐々にQCD全体を向上させることに成功したことで、FMCは、既存の木型を用いた砂型鋳造法に対して、破壊的イノベーションとなったのである。破壊的イノベーションが起こるロジックは、クリステンセンらの分析よりもずっとシンプルで、最初は既存技術と比べたらQCD的にオモチャのような技術であっても、ごく一部の特殊な固有要求をもった顧客だけでも獲得することができれば、事業を継続する中でQCD全体を向上させる機会を得ることができるという点にある。

Kobayashi, M. (2015). Requirement for engineers in embedded software development outsourcing. Annals of Business Administrative Science, 14(2), 97-108. doi: 10.7880/abas.14.97 Download (Available online January 18, 2015)

一般に、application software developmentを暗黙の前提としたソフトウェア開発のアウトソーシング研究においては、hardware product characteristicsが無視される傾向がある。ところが、embedded software developmentにおいては、hardware product characteristicsに応じて、エンジニアに必要な能力、知識は異なる。本稿では、hardware product characteristicsがソフトウェア開発のアウトソーシング先に与える影響を、ヒアリング調査を通じて明らかにする。embedded softwareの場合、アウトソーシング先のエンジニアは、製造元企業の内部で構築したソフト知識だけでなく、製造元企業の内部からしか取得できないhardware product characteristicの技術情報・知識も求められる。この蓄積が継続的に行われていることが、この種のソフトのアウトソーシング受注には必要となり、離職率の低さなどが決定的に重要になる。

Fukuzawa, M. (2015). Dynamic capability as fashion. Annals of Business Administrative Science, 14(2), 83-96. doi: 10.7880/abas.14.83 Download (Available online December 21, 2014)

1990年代後半から2000年代初頭にかけて、ダイナミック・ケイパビリティ(dynamic capability, DC)に関する研究が登場した。ワーキング・ペーパー段階から引用されて有名だったTeece, Pisano, and Shuen (1997) が出版され、続いてEisenhardt and Martin (2000)、さらには「能力」というキーワードに関連して、Zollo and Winter (2002)のようなルーチンや組織学習の研究者も加わった。これら影響力の大きな3つの研究では、DCを構成する概念として、(1)環境変化の程度、(2)組織プロセス(ルーチン)、(3)資源のもちよう、(4)経営者の役割(たとえば、資源投資に関わる意思決定)、(5)学習メカニズムを挙げていた。しかしその後、Resource-based view (RBV)の研究者が大量に参入し、その際に、「資源」のスタティックな状態記述とその変化の議論にすぎないにもかかわらず、とりあえず「変化」「競争優位」「能力」というキーワードが入ればDCの研究と自称する傾向が顕著になった。研究開発、買収、提携の研究に安易にDC論というラベルを付けたことで、(a)「何がダイナミックなのか」という概念上の曖昧さや混乱を生み、(b)それが「ケイパビリティという安定的な特性」によって説明されるのかについて多様な見解が生じたことにより、DC論の本質が見失われる結果となった。

Takahashi, N. (2015). Where is bounded rationality from? Annals of Business Administrative Science, 14(2), 67-82. doi: 10.7880/abas.14.67 Download (Available online December 7, 2014)

Simonといえば、すぐに想起させるほどに重要な「限定された合理性」であるが、実は、『経営行動』の元の本文には、用語として一度も登場しない。にもかかわらず、ノーベル経済学賞受賞の2年前1976年に出版された第3版の索引では、“rationality” の項目の子項目として “bounded rationality” が3箇所で索引をつけられている。そこに書かれていることをつなぎ合わせると、 (T) それは、個人の合理性の制約によってboundされている。(U) それは、ゲーム理論で仮定されているように「すべての代替案」と「それらのすべての結果」を知って「所与の価値」を最大化することはできない。(V) それに、その所与の状況の見地から合理的である行動はグループの見地からも合理的という意思決定の環境を与えることで、組織が補う。そこに垣間見える合理性は、ゲーム理論との違いを強調すれば、“bounded rationality”ということになるのだろうが、しかし、それにぴったり当てはまる概念はBarnardの「限定されてはいるが重要な選択力」である。

Wada, T. (2015). Mottainai innovation. Annals of Business Administrative Science, 14(1), 53-66. doi: 10.7880/abas.14.53 Download (Available online November 23, 2014)

現在のビジネスで副産的に生じるが、利用方法の見つかっていない廃棄物を原材料化できれば、原材料をタダで手に入れられるようになるだけではなく、今まで支払ってきた廃棄コストも削減できる。しかし、一般的には企業における組織学習が、廃棄物を資源化しようと挑戦することをためらわせる。企業は、過去に廃棄物を資源化しようとするすべての試みが失敗した結果から学習された、「これは廃棄物で資源ではない」という認識をアンラーニングする必要がある。また、廃棄物の資源化のための開発活動は、最初の段階で明確な目標が見えた計画的な戦略プロセスとはかけ離れたもので、なんとしても廃棄物を資源化するというおおまかなガイドラインのみ設定された、計画的創発戦略プロセスであると考えられる。この目的を実現するためには、企業は短期的な利益が得られない中で、忍耐強く試行錯誤を繰り返さないとならない。本稿では、廃棄物を活用する技術の開発、市場化に成功した事例として、焼津水産化学工業株式会社(YSK)の「N-アセチルグルコサミン(N-acetylglucosamine: NAG)」の開発プロセスを紹介する。YSKの事例においては、(1) 物質の価値を最大限引き出そうとするmottainai精神が、アンラーニングのための大きな原動力になる、(2)短期的な成果が出なくてもあきらめず取り組む、未来傾斜原理が、廃棄物の資源化を成功へと導いており、mottainai innovationというべきものであった。

Mitomi, Y., & Takahashi, N. (2015). A missing piece of mutual learning model of March (1991). Annals of Business Administrative Science, 14(1), 35-51. doi: 10.7880/abas.14.35 Download (Available online November 9, 2014)

"Exploration and exploitation in organizational learning" (March, 1991)の相互学習モデルはコンピュータ・シミュレーションの結果から「組織メンバーの側の遅い学習が多様性を長く維持するために探索につながる」と結論している。しかし、March (1991) のシミュレーションは、社会化率の定義域の両端が抜けており、その部分をシミュレーションで補うと、本当は平均知識レベルを最大にする最適な社会化率が存在する。なぜなら、実際には、組織メンバーの側の低学習がロックインを多発させ、そもそも学習を阻害するからである。その最適な社会化率は社会化率としてはありふれた値である可能性があり、その可能性をシミュレーション手法で否定することはできない。しかもその高い知識レベルは非均衡で達成されるものだった。

Inamizu, N. (2015). Garbage can code: Mysteries in the original simulation model. Annals of Business Administrative Science, 14(1), 15-34. doi: 10.7880/abas.14.15 Download (Available online October 26, 2014)

あいまい性のもとでの組織の意思決定モデルとしてゴミ箱モデル (garbage can model)(Cohen, March, & Olsen, 1972) がある。ゴミ箱モデルのオリジナルの論文ではコンピューター・シミュレーションによる分析が行われていた。しかし、Cohen et al. (1972)のAppendixにFortranのソース・コードが掲載されていたにもかかわらず、その後の研究では、シミュレーション・モデルの内容について触れられることは希である。本研究では、Cohenらのシミュレーション・モデルを、Cohen et al. (1972) のAppendixのソース・コードを解読することで検討する。その結果、以下の3つのことが明らかとなる。(1) 3つの意思決定スタイル(「解決 (decision by resolution)」「見過ごし (decision by oversight)」「やり過ごし (decision by flight)」)を検出できるプログラムになっていなかったこと、(2) 問題 (problem) だけでなく意思決定者 (decision maker) が選択機会 (choice opportunity) にいなくても行われる意思決定があるということ、(3)(2)のような意思決定の発生を回避するためなのか、選択機会の中に問題が存在しないにもかかわらず、存在するかのような初期設定がされていることである。

Takahashi, N. (2015). Behind the shell: Rigid persons clung onto it. Annals of Business Administrative Science, 14(1), 1-14. doi: 10.7880/abas.14.1 Download (Available online October 12, 2014)

Weberの“Gehause”を“iron cage”と訳したのはParsonsの誤訳で、本来は“shell”と訳すべきだったといわれる。そうすることで経営学的にも有用な概念となる。表からは護符として見えている殻をひっくり返して裏を見ると、殻の裏には、しがみついて硬直している人間がいる。殻に競争優位があれば、硬直性は言い訳が立つ。しかし、殻が競争優位を失いつつある、あるいは既に失っていても、殻にしがみつき続けている状態は問題である。たとえばModel T FordやSystem/360という殻に、護符のごとくしがみつくことで、FordやIBMは驚異的な急成長を遂げ、そしてその化石化した製品 デザインとともに、やがて「じり貧」に陥っていった。殻は製品デザインに限らない。販売店網、親会社の営業力、不動産、特許、フランチャイズ契約等、成長期と成熟期を経験した会社に殻を見つけることは容易である。その殻にしがみついている限り、もはや成長の見込みがないことは、経営者も従 業員もわかりきっているのに、殻はレントの源泉となっていることが多いため、「じり貧」に陥るのである。


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