ABAS Article List 2020 in APA Style


Byun, S. (2020). Managing the interdependence among successive stages of production in steel industry.
Annals of Business Administrative Science, 19(6), 293-305.
doi: 10.7880/abas.0201111a Download (Available online December 11, 2020)

世界の鉄鋼メーカー約200社の中で、溶融亜鉛メッキ鋼板、電磁鋼板など、いわゆる高級鋼を生産できる鉄鋼メーカーは一部に限られる。鉄鋼産業のような装置産業の場合、設備に技術知識が体化されているので、技術移転およびキャッチアップは比較的容易とされてきたが、いまだに高級鋼生産の分野では、大規模な資本投資と最新鋭設備を武器にした新興国鉄鋼メーカーの苦戦が続いている。その原因は、既存工程に新たに工程を追加接続すると、追加工程だけではなく、全工程の操業パラメータを調整する操業技術が必要になり、工程数が増えると調整すべき操業パラメータの組合せが膨大になり、パターン知識獲得に時間がかかるからである。

Hatta, M. (2020). Deep web, dark web, dark net: A taxonomy of "hidden" internet.
Annals of Business Administrative Science, 19(6), 277-292.
doi: 10.7880/abas.0200908a Download (Available online December 7, 2020)

近年オンラインのブラックマーケットや匿名の仮想通貨が学術研究の対象となりダークウェブもある程度の知名度を獲得した。しかし似た文脈で、ディープウェブ、ダークネットのような意味の異なる用語も使われるために、ダークウェブを巡る議論は混乱しがちである。そこで本稿では、これらの概念の違いを歴史的経緯も含めてわかりやすく整理した上で、ダークウェブで用いられるオニオンルーティングと呼ばれる技術を説明する。

Fukuzawa, M. (2020). Reconsideration of value stream mapping and cross-functional integration in the digitalization of operations.
Annals of Business Administrative Science, 19(6), 263-276.
doi: 10.7880/abas.0201012a Download (Available online November 11, 2020)

欧米のVSMやクロス・ファンクショナル・インテグレーションに関する既存研究においては、バリューチェーン全体での流れに注目することで全体最適を目指していくというリーン生産やフローマネジメントの本質からの乖離が見られたり、モノと情報の流れの実態にもとづいた実証研究が十分に行われてない。近年の日本のものづくり企業におけるグローバル化しデジタル化の進んだサプライチェーンやバリューチェーンにおけるモノと情報の流れの全体最適化を進めていくためには、基本に立ち返り、モノと情報の流れ全体に注目して、「流れの実態」を把握しつつ、それに作用する要因に関する実証的研究が行われることが必要である。

Wada, T. (2020). Two dilemmas and one trap with open innovation.
Annals of Business Administrative Science, 19(6), 253-261.
doi: 10.7880/abas.0201013a Download (Available online November 11, 2020)

Chesbrough (2003) は、R&Dを単独企業によって行うクローズド・イノベーション(CI)に対して、必要に応じて社外の技術知識を活用する、または自社技術を他社に活用してもらうオープン・イノベーション(OI)の有効性を指摘した。しかし、OIには、(1) 外部から獲得した知識がライバル企業も入手できる場合、競争優位とならないアウトソーシング・ジレンマ、(2) 自社と同じ製品を製造・販売するアセンブラに部品を販売すると自社の製品の強力なライバルとなるインテグレーターズ・ジレンマ、(3) 製品の大幅なイノベーションに製品全体の構造の見直しが必要とされるときに、企業間で分業してオープン・モジュラー・アーキテクチャを選択し知識が分散していると対応できないモジュラリティ・トラップが伴う。これらのジレンマ、トラップが存在するとき、OIは必ずしも効率的な選択とはならない。

Tsuda, K., & Sato, H. (2020). Getting things done by middle manager.
Annals of Business Administrative Science, 19(6), 241-251.
doi: 10.7880/abas.0200901a Download (Available online November 7, 2020)

中間管理職の役割については多くの研究が蓄積されているが、その大半は中間管理職の管理業務に焦点を当てている。しかし、日本企業の2183人の管理職を調査したところ、87%の管理職が、メンバーと同等の非管理業務を実行していた。また、非管理業務の割合が少なすぎる、あるいは多すぎるといった極端な中間管理職のケースでチーム・パフォーマンスが低く、適切な割合の非管理業務を行っている中間管理職の方がチーム・パフォーマンスは高かった。

Kosaka, D., & Sato, H. (2020). Employee engagement and work engagement: Same wine, different bottles?
Annals of Business Administrative Science, 19(6), 227-239.
doi: 10.7880/abas.0200911a Download (Available online November 1, 2020)

エンゲージメントは、研究においても、また経営の実践においても注目されている概念である。しかし、エンゲージメントには、対象がワークやジョブか、企業や組織かといった違いで、様々なタイプのものがありうる。本稿では、ワークエンゲージメントと従業員エンゲージメントの概念についての比較検討から、次の3点を指摘する: (a)マネジメントの分野のアカデミック・ジャーナルではどちらの用語も同じような頻度で使われるが、アカデミックでないソースでは従業員エンゲージメントばかりが使われ、医学・看護学系の論文ではワークエンゲージメントばかりが使われる。(b)このうちワークエンゲージメントについては、もともと病院で働く看護師などを対象としたバーンアウト研究が源流だったためと考えられる。(c)2つの概念を十分区別していない研究も多くみられるが、測定対象やその源流の違いから異なる概念として扱うべきである。

Fukuzawa, M. (2020). Function of value stream mapping in operations management journals.
Annals of Business Administrative Science, 19(5), 207-225.
doi: 10.7880/abas.0200909a Download (Available online October 13, 2020)

欧米ジャーナルにおけるVSM研究においては、重要なリーン・ツールの一つとしてVSMが活用され、パフォーマンスが向上したとの報告がなされているが、そこでは、主に生産活動をはじめとした個別の機能や部門におけるボトルネック発見と改善を促進する部分最適化ツールとしてVSMが機能している。そのため、VSMの適用が成功裏に進むほど、バリューチェーン全体での流れに注目することで全体最適を目指していくという、本来のリーン・プロダクトやフロー・マネジメントの本質から乖離してしまい、顧客までの流れ全体のパフォーマンスを下げてしまう可能性がある。

Abe, M. (2020). A trap when using common key phrases: A case of an organization with multiple professions.
Annals of Business Administrative Science, 19(5), 193-205.
doi: 10.7880/abas.0200903a Download (Available online September 25, 2020)

組織内統合には、全職員が共通認識しているキーフレーズを使うことが効果的だと言われてきた。ところが音羽病院では、長年使ってきた「患者のために」「患者第一」を用いたことで、統合に失敗した。職員はそれまで「患者のために」「患者第一」に対して職種ごとに異なる意味を当てはめ、それに基づいた活動によって職種としての成功体験を積み重ねていた。その経験が思考や行動の変化を妨げる慣性として働き、職種毎の個別最適な活動が加速してしまったのである。単に部門横断的に職員が共通のキーフレーズを用いるだけではなく、行動を通してキーフレーズの多義性を減らしていくプロセスが重要なのである。

Oki, K. (2020). Does CAGE framework predict COVID-19 Infection?: An exploratory study on national factors associated with COVID-19 infections.
Annals of Business Administrative Science, 19(5), 175-192.
doi: 10.7880/abas.0200721a Download (Available online September 9, 2020)

本稿の目的は、国際経営分野で用いられるCAGEフレームワークを用いて、各国の新型コロナウィルスの感染者数および死亡者数と関係する国の変数を明らかにすることである。新型コロナウィルスの感染者数と死亡者数を従属変数に、各国のCultural factors Administrative and political factors、Geographic factors、Economic factorsを独立変数にした重回帰分析を、複数時点で行った。結果、以下の4点が明らかになった。1) Cultural factors、Geographic factors、Economic factorsは感染者数・死亡者数のいずれとも関係がない。2) Administrative political factorsは感染者数と関係があり、その国の汚職度が高いほど、政府によるCOVID-19の情報掲示が長いほど感染者数が少ない傾向にある。3) 死亡者数はいずれのfactorsとも関係がない。4) 特定の変数と感染者数・死亡者数の関係は時間とともに変化する。

Suolinga, S., & Kim, H. (2020). How foreign technical interns contribute to SMEs' overseas expansion.
Annals of Business Administrative Science, 19(5), 159-173.
doi: 10.7880/abas.0200804a Download (Available online September 3, 2020)

外国人技能実習生(technical interns: TI)は、いまや中小企業には欠かせない人手であるが、一般的には短期的な単純労働者の代名詞だと思われている。しかし、気仙沼からインドネシアに進出した中小企業の事例では、インドネシアから来たTIは技能実習を積んで、インドネシア進出の際の力になっただけではなく、その後のインドネシアでの市場浸透と新たな事業機会の発掘にも有効な人的資源となっていった。これこそが本来のinternの姿ではないだろうか。

Hatta, M. (2020). The right to repair, the right to tinker, and the right to innovate.
Annals of Business Administrative Science, 19(4), 143-157.
doi: 10.7880/abas.0200604a Download (Available online August 12, 2020)

手元の機械等を修理したり「いじる (tinkering)」ことによって内部の仕組みや構造を学び、そこに新たな独創を付け加えることで新製品を生み出すということは、これまで人類が脈々と行ってきたイノベーションの根本である。ところが近年では、製品の複雑化や技術的制約、法規制により、次第にユーザがいじれる範囲が狭められてきた。これに対して、修理する権利やいじる権利を明示的に取り戻そうとする動きも活発となっている。本稿ではこれらの権利の重要性が意識されるようになった経緯を明らかにしたい。

Kuwashima, K., Inamizu, N., & Takahashi, N. (2020). In search of ambidexterity: Exploration and bricolage.
Annals of Business Administrative Science, 19(4), 127-142.
doi: 10.7880/abas.0200621a Download (Available online August 3, 2020)

両利き(ambidexterity)の概念、特にexploitationの概念は曖昧である。多くの研究が理論的基礎とするMarch (1991)では、イノベーションを含むexplorationと含まないexploitationとはトレードオフの関係にあると主張し、だからこそ、Levinthal and March (1993)は学習の近視眼を唱えた。にもかかわらず、Levinthalはその後、イノベーションと呼べるexploitationをモデル化する。explorationとexploitationはトレードオフの関係にある両極の概念なのか、それとも直交する2軸なのかも論者が混在する。本稿は、exploitationの代わりに、Levi-Straussのブリコラージュ(bricolage)を使うことを提案する。このブリコラージュは、もちあわせの道具・材料だけでなんとかする(イノベーションを行う)という概念で、ブリコラージュとexplorationは併用するもので、両利きが通常形態である。そのことを2020年の日本におけるCOVID-19への対応を例に示そう。

Aizawa, A. (2020). Why fuel economy fraud happened in the Japanese automotive industry?
Annals of Business Administrative Science, 19(3), 111-125.
doi: 10.7880/abas.0200522a Download (Available online June 15, 2020)

1970年代のオイルショック、1990年代以降の環境問題、さらに日本政府の経済的施策が燃費競争を加速し、燃費性能が重要な競争指標になった。ところが、燃費を計測する技術者からすれば、燃費は (i) 曖昧でかつ種々の要因で変動する不安定な指標で、しかも、(ii) 安全性に影響しないリコール対象外の品質だった。そこに燃費競争圧力がかかったために、燃費計測は現場で恣意的となり、やがてそれが常態化して、2016年以降、組織的な不正行為として、日本の自動車業界で次々と発覚していった。

Huang, W. (2020). The impact of user interactions on freemium game performance.
Annals of Business Administrative Science, 19(3), 97-109.
doi: 10.7880/abas.0200429a Download (Available online June 11, 2020)

A社のProject Rは、(a)ゲームのプレイ料金を基本的に無料にして多数のユーザを獲得し、(b)その中から少数の課金ユーザを作り出して収益を上げるフリーミアムモデルのゲーム事業である。Project Rでは、収益増加のために、課金能力ブーストアイテムを追加した。すると、当初、月間売上高は20%増加したが、2か月後には既存の無課金ユーザのプレイ時間が減り、新規の無課金ユーザの離脱も増えてしまった。こうした課金能力ブーストアイテムの投入は(a)と(b)のバランスを崩し、長期的には収益を減少させ、ゲームを短命化してしまうのではないか。そこで本稿ではシミュレーションを行い、そのことを確認した。

Kuwashima, K. (2020). A role model of large-scale university-industry collaboration in Japan: The case of Chugai Pharmaceutical and Osaka University.
Annals of Business Administrative Science, 19(3), 81-96.
doi: 10.7880/abas.0200422a Download (Available online June 5, 2020)

2010年代半ば、日本では10年100億円もの大規模な産学連携が登場した。本稿では、その先駆的な事例である中外製薬と大阪大学の創薬研究プロジェクトを取り上げ、それが実現された背景を探る。一般に、産学連携に参加する企業が最も重視するのは、投資に見合う成果(大学の貢献)を得られるかどうかである。本事例において、中外製薬が100億円の投資を決断する鍵となったのは、大阪大学が文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択され、十分な貢献を期待できる研究能力を蓄積したことであった。その意味で本コラボレーションは、国がイノベーション拠点の構築を支援し、それが軌道にのった時点で、支援者を国から企業へとうまく切り替えることで実現されたと解釈できる。こうしたいわば「政府支援による大型産学連携」は、今後の産学連携の1つのロールモデルとなる可能性がある。

Inamizu, N. (2020). Estimating communication by position information in office.
Annals of Business Administrative Science, 19(2), 67-80.
doi: 10.7880/abas.0200317a Download (Available online April 12, 2020)

本研究は、ある企業のオフィス及び従業員(308名)を対象として取得された (a)センシング技術を用いたオフィス内位置情報と (b)デイリーアンケート(毎日回答する質問紙調査)のデータをもとに、位置情報からオフィス内でのコミュニケーションのボリュームをある程度推定することが可能であることを示すものである。近年、オフィス環境とコミュニケーションの関係に注目が集まっているが、本研究の結果は、大規模サンプルに対して低コストでオフィス内のコミュニケーションを測定することに対して一つの示唆を与えるものである。

Takahashi, N. (2020). Simulation and organizational studies in Japan.
Annals of Business Administrative Science, 19(2), 45-65.
doi: 10.7880/abas.0200227a Download (Available online April 4, 2020)

1990年代以降、日本でも組織のシミュレーション研究が行われるようになった。本稿は研究者間の関係も重ね合わせて、日本における組織のシミュレーション研究をレビューする。世界はシミュレーション結果をメタファーとして引用する潮流だが、日本には対照的に、既存モデルを批判的に検討し、自らもシミュレーションを行い、それをさらに調査データと突き合わせて検証するというユニークな研究群が存在する。彼らが得た教訓は、(a) シミュレーション結果の動画は、研究者やビジネスパーソンのイマジネーションを掻き立ててくれる。しかし、(b) シミュレーションが示す現象やパラメータの値の現実性が調査データで裏付けられなければ、シミュレーションから導き出されるインプリケーションは、ただの妄想にすぎない。

Nakano, K. (2020). How the Japanese electrical industry reduced licensing costs after World War II.
Annals of Business Administrative Science, 19(2), 29-44.
doi: 10.7880/abas.0191220a Download (Available online March 10, 2020)

本稿は、第二次世界大戦後の日本の電機産業の製品開発を、ライセンスコストの削減戦略の視点から捉え直す。日本の電機メーカーは、戦後直後は、海外からの技術導入によって自社の技術を高めていった。しかし、製品をできるだけ安価にする方策を模索する中で、ライセンス生産にはライセンスコストの限界があった。そこで多くの日本の電機メーカーは、自社開発した特許を元にしたクロスライセンスで相殺してライセンスコストを抑えるようになった。さらにライセンスコストを抑えるには、自前のライセンスで製品を造るしかなく、各電機メーカーは中央研究所を設立し、1990年代初頭まで自前主義が幅を利かすが、実は、これは歴史的には特異な行動だった。

Bui, T. (2020). Executive compensation and independent directors in Japan.
Annals of Business Administrative Science, 19(1), 13-28.
doi: 10.7880/abas.0200107a Download (Available online February 11, 2020)

近年、日本企業では米国にならって独立社外取締役の導入が急速に進められている。独立社外取締役は経営者に対する監督機能、とりわけ経営者報酬の決定において重要な役割を果たすと考えられており、米国企業について、そのことを実証した先行研究もある。ただし、それに懐疑的な研究も存在する。そこで本稿では、米国企業を対象とした先行研究 Chhaochharia and Grinstein (2009) に倣って、TOPIX500に選出されている非金融事業会社のうち条件に合った日本企業322社を対象に、独立社外取締役の増加が経営者報酬に与える影響を分析したが、先行研究が示したような統計的に有意な影響は見られなかった。実際には、取締役会の構成といった要因よりも、各社が独自に決めている経営者報酬の構成が、経営者報酬の水準に大きな影響を与えていることがわかった。

Mitomi, Y., Suh, Y., & Sato, H. (2020). The birth of Japanese whisky: A case of Suntory.
Annals of Business Administrative Science, 19(1), 1-11.
doi: 10.7880/abas.0191111a Download (Available online January 11, 2020)

いまや世界5大ウィスキーの一角を占めるジャパニーズ・ウィスキーはどのようにして誕生したのか。21世紀になって始まった国際的なコンペティションで、多数の賞を受賞したサントリーは、1980年代、消費者ニーズの多様化に翻弄され、ウィスキーの売上減少に苦しみながら、様々な原酒を造っていた。皮肉なことに、こうした多彩なモルトが、今度は、質の高いブレンドウィスキーを次々と生み出し、国際コンペティションで評価されていった。


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