18巻5号

2019年10月25日発行

オンラインISSN 1347-4448,印刷版ISSN 1348-5504
発行 特定非営利活動法人グローバルビジネスリサーチセンター(GBRC)

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< 査読つき研究論文 >

社会科学における現場概念と現場史の可能性

藤本隆宏

pp. 171-202

本稿では、工場、開発拠点、店舗、サービス拠点など、付加価値が流れる場所及びその組織を広義のものづくり現場 (以下「現場」) と規定し、ひとつの現場、たとえばある地域に立地した工場の生成・発展・持続・衰退・消滅などの動態を長期的に分析する「現場史」の可能性を探索的に論じる。まず歴史的分析としての現場史の特徴 (空間的・時間的限定性、多面性、創発性、学際性) を指摘し、それが、必ずしも産業史や企業史 (特に大企業の社史) には還元できない独自の学術的価値を持つ可能性を指摘する。次に、地域に根差す社会的存在でもある現場が、資本主義的な利益最大化企業とは異なる目的関数系を持つ経済主体である可能性を論じ、特に冷戦後のグローバル競争時代において、高賃金先進国である日本の貿易財系の生産子会社や中小企業の多くが、「現場指向企業」として、現場自体の存続と雇用維持を目的とした生産性向上や需要創造の継続的努力を行ってきた歴史的事実を確認する。これは、この時期に一部の大企業が低賃金国への生産シフトを加速化しようとしたのとは対照的な産業行動であった。それを踏まえ、新興国との極端な国際賃金差が存在したポスト冷戦期が終わりつつある2010年代に、冷戦終結後の日本の国内現場あるいは「現場指向企業」を対象とした「現場史」を研究することの意義を強調する。また、現場史の前提となる「現場」の多面性、主体性、能力構築努力、需要開拓努力など、現場の諸特性を論じ、最後に、ポスト冷戦期を含む現場指向企業に関する具体的な略史の事例をいくつか手短かに紹介する。
キーワード:現場史、現場指向企業、ポスト冷戦期、グローバル能力構築競争、需要創造

藤本隆宏 (2019)「社会科学における現場概念と現場史の可能性」『赤門マネジメント・レビュー』 18(5), 171-202. doi: 10.14955/amr.0190416a

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< 経営学輪講 >

不正行為はなぜ常態化するのか―経営学輪講 Ashforth and Anand (2003)

會澤綾子

pp. 203-216

Ashforth and Anand (2003) は、組織の中で複数人によって行われるグループレベルの集合的不正行為 (collective corruption) に着目し、その発生メカニズムについてフレームワークを提言した。そして、組織内で複数人によって不正行為が行われ継続していくことを「不正行為が常態化する (normalized)」と表している。常態化するまでの要因は、(1) 制度化、(2) 合理化、(3) 社会化の三つに分けられる。リーダーシップにより始まった不正行為は組織内で埋め込まれルーティン化することで制度化されていく。そしてその行為は合理化されることで関わる人々の概念を再構成していく。本来であれば誤りに気付くはずの新規加入者も、不正行為を行う組織に取り込まれ社会化されていくため、常態化した不正行為を止めることは非常に難しい。Ashforth and Anand (2003) の提言は、企業における不正行為が組織ゆえに発生し、かつ継続してしまうということを改めて認識することになるだろう。
キーワード:不正行為、集合的不正行為、制度化、合理化、社会化

會澤綾子 (2019)「不正行為はなぜ常態化するのか―経営学輪講 Ashforth and Anand (2003)」『赤門マネジメント・レビュー』 18(5), 203-216. doi: 10.14955/amr.0190925a

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