MMRC発の論文が
『日本経済新聞』経済教室に掲載されました
すでに御存知かもしれませんが、8月11日付の『日本経済新聞』の「経済教室」
に「ものづくり経営研究センター」(MMRC)のセンター長である藤本隆宏教授と大
鹿隆特任教授の共著で、アーキテクチャと輸出競争力の関係について実証した記
事が掲載されました。
藤本隆宏・大鹿隆
「現場発の産業立地戦略 『擦り合わせ型』を国内に」
『日本経済新聞』2005年8月11日23面
昨年、経済産業省と共同で実施したアーキテクチャ・アンケートの結果を利用し
て分析を進めたもので、分析の一部は2005年版『ものづくり白書』に掲載されて
いますが、今回の記事は、その後の成果を紹介したものです。簡単に要約する
と、日本の産業では、機能と構造の関係が複雑な擦り合わせ型の製品ほど輸出比
率が高いが、こうした製品は日本が強みを持つ多能工的な労働力と相性がいいと
いうものです。
この記事をきっかけに、MMRCの内部で、ちょっとした議論とやりとりがありまし
たので、簡単にご紹介しておきましょう。MMRCの雰囲気が伝わりますでしょう
か。
【新宅純二郎助教授】
産業横断的に、この種の実証分析をしたものはなく、また従来の貿易論にも挑
戦するというきわめて野心的な研究で、たいへん高く評価したいと思います。日
本では労働集約的な産業が、輸出比率が高いというのは、昔のレオンチェフのパ
ラドックス、それに対するバーノンの答えを彷彿とさせる議論です。
ただし、やや個人的に不満なのは、開発設計段階における摺り合わせと、生産
段階における摺り合わせが一緒になっていることです。自動車は両方とも摺り合
わせ度が高い、だから日本で生産して輸出、というパターンが残る。しかし、開
発は摺り合わせだが、生産は専用設備を使えば単純労働でできる、というものは
海外生産になります。私たちが研究している光ピックアップのようなものはその
典型ではないかと考えています。光ピックアップは、日本企業の世界シェアが
90%、その生産はほとんどすべて中国、したがって日本からの輸出はほとんどな
い、という状態です。輸出比率を国際競争力の指標としてとるのは、いまの時代
にいかがなものかと感じております。
以上、やや批判的なことを書きましたが、批判するためにかいたわけではあり
ません。この研究を発展させると、ものすごくインパクトのあるものになると高
く評価しておりますし、そのようなものにしていきたいと希望します。
【藤本隆宏教授】
新宅さんの御指摘ごもっとも。輸出比率のみならず海外生産を含む海外販売費
率もとりましたが、結果はほぼ同様。しかし、スペースがなく今回ははずしまし
た。企業は国境をこえる存在なので、戦略論なら海外販売比率、産業論ならやは
り輸出比率でしょう。工程アーキテクチャと製品アーキテクチャをわけろという
のもごもっとも。工程アーキテクチャの測定指標が未発達なので、モデルの改善
は必要でしょうが。いずれにせよ、産業論はミクロ経済やマクロ経済の付属物と
してではなく、現場ベースで考えるべきだ、という日本発の産業論を考えるべき
だと最近は考えています。MMRCの位置付けもそんなところかと思います。
【大鹿隆特任教授】
ご丁寧なコメントありがとうございます。国際競争力指標として、輸出比率だ
けでなく、海外販売比率も定義して、実証分析しています。結果は輸出比率の結
果と大きく変わりませんが、労働集約度の統計的検定がやや弱くなっています。
新宅先生の指摘する開発国内・生産海外の比率が高くなっているかもしれませ
ん。
【小川紘一特任研究員】
輸出比率という表面に現れた現象でマクロな一般的な状況を把握できたと思い
ますが、新宅先生がおっしゃる製品アーキテクチャの本質とその技術拡散に及ぼ
す影響などを考慮することによって、企業で実務に携わる人々が使えるレベル
の”アーキテクチャ比較優位論”へと展開できるのではないでしょうか? 我々
はこれを具体化するための多くの調査データを既に持っていると思います。
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