研究員の独り言

 月日の流れるのは早いもので、オンライン・ソフトウェア研究会が発足してから1年が経とうとしています。 これまでオンライン・ソフトウェア研究会では、いくらか研究成果を報告してきましたが、そのプロセスの中で次第に問題意識や研究の焦点が 変化してきました。先日、研究会としての第一弾プロジェクトの研究成果を、論文として学術雑誌に投稿するところまで漕ぎ着けました。また、 発足一周年という節目の時期でもありますので、現在すでに走り始めている第二弾プロジェクトの発案にまつわるお話しを、徒然に書いてみたいと 思います。
 そもそもオンライン・ソフトウェア研究会は、フリーウェア、シェアウェアと呼ばれるソフトウェアの開発活動の 実態は一体どうなっているのか?という問題意識、まぁ、野次馬根性とか好奇心とも言いますが、そこに出発点がありました。そこで我々は、著名な オンラインソフトの開発者の方々にインタビュー調査をさせていただき、フリーウェア、シェアウェアの開発の実態に迫るべく、調査・研究を行って きたわけです。その過程で、曲がりなりにも我々は研究者の端くれですから、一般的なパッケージソフトと比べて、オンラインソフトの開発のあり方を 特徴づける要因は一体何だろう?ということを明らかにしようと、試行錯誤を繰り返していきました。
 そこで我々が着目したのが「開発活動を担う組織」です。インタビュー調査を繰り返し行っていくうちに、どうやら ユーザに提供する財・サービス(ここでは敢えて「製品」とは言いませんが、その理由はいずれ明らかになると思われます)の、客観的属性だけでなく、 提供する側(開発者、企業)が財・サービスに付与する属性、あるいは認識、とらえ方と言ってもいいかもしれませんが、そうしたものまでを含めた属性が 開発組織のあり方を規定しているのではないかという印象を持ったのです。
 ふつう「開発組織」と言えば、企業内の企画、研究・開発、製造、販売、営業などといった複数部門から成るものを 組織としてとらえると思いますが、そもそも「組織」とは「企業」とは別の概念で、その広がりは企業という境界にはとらわれないはず…。高橋先生に 教わった、こうした組織観を思い出したとき、我々の第二弾プロジェクトが産声を上げました。
 研究会の名称に「オンライン・ソフトウェア」と入れてしまったからといって、何もフリーウェア、シェアウェアに固執することは ないだろう。財・サービスの属性によって、開発組織のあり方だけでなく、ユーザへの提供方法などを含めた「開発スタイル」全体がさまざまに変化するという のなら、ソフトウェアにこだわる必要もない。ソフトウェアから出発して多様な財・サービスの、オンラインすなわち組織というネットワークによって担われる 開発活動に目を向けていけばいいじゃないか。
 それならば、ということで、現在、ソフトウェアを確固たる「製品」として提供されている企業の方にインタビュー調査を させて頂いています。他にも、とあるサービスを提供されている企業にも、調査にご協力頂いています。これらの調査結果をまとめたケース・スタディや論文は、 さすがにこのサイト内で公表できるかどうかわかりませんが、学会報告や投稿論文として発表したいと考えています。
 最後に、単なるコンピュータ・マニアが思いつきで始めてしまった研究プロジェクトに、1年間おつき合い頂いた生稲研究員に 厚く御礼申し上げます。第二弾プロジェクトでは、その成否がさらに生稲研究員の双肩にかかってしまいますが、今後ともよろしくお願いします。