第2回 2005年9月2日 (金曜日)講演者 : 丸山嘉浩 氏
マイクロソフト株式会社執行役Xbox事業本部長
『現行機の反省を踏まえての、Xbox360の日本での展開の方向性』
<講演要旨>
ご講演では、まず1点目としてエンターテインメント業界の特徴と経営のあり方について、そして2点目としてXbox が行っているゲームのプラットフォームビジネスについて、その概要、成功のカギ、近い将来へ向けた新しいビジネスモデルについてお話頂いた。-
エンターテインメント業界と特徴
エンターテインメントの特徴としては、まず、生活必需品ではない。無くてもだれも困らない(逆に言えば、あれば生活が豊かになる)物であることが上げられる。これは、マイクロソフトが従事するソフトウェア業界とは大きく異なる。また、どんなにリサーチや分析をしても、顧客が何を欲しいかはわからない点も大きな特徴である。リサーチに基づくと競合他社と同じようなものしかできず、顧客は飽きてしまうという結果に陥る。
エンターテインメント業界で新しい商品を作るときには、クリエーターの直感的な判断や、強いこだわりから、顧客の欲しいものを生み出すしかない。その何かこだわりのあるクリエーターに、やらせてみるかどうかが経営判断となる。
これらの特徴から、会社としてはボラティリティが高いため売上の大きさを読みにくく、フォーキャスティングモデルも組んではいるが、予測はしきれない。公開企業としてこういうものをやっていていいのか、という疑問はある。
なにか、別のビジネスモデルの事業を展開することである程度のボラティリティを薄めることはできるが、根本的にその不安定さを取り除くことはできない。エンターテインメントのコンテンツの創造には、このボラティリティは必ずついてくる。
また、エンターテインメントに既存の市場、マーケットというものは無い、創っていくものである。一定のパイを分け合うのではなく、パイを作り出すビジネス。市場はゼロサムではなく、顧客が面白いと思ってくれるものを創れればいくらでも大きくなるし、逆に市場がなくなってしまうこともあるだろう。
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Xboxのビジネス=ゲームのプラットフォームビジネスとは何か?
ゲームのプラットフォームが、他のエンターテインメントと違う点は、ゲームのプラットフォームはソフトの製作段階に大きな影響を与えること。ゲームのプラットフォームの技術にソフトが大きく依存する。
そして、プラットフォームの評価は、その技術的な要素だけではなく、ソフトがどれくらい良いものか(楽しいか)で決まる。つまりプラットフォームの評価も、ソフトのクリエーターに依存している。
この中で、プラットフォームとしてできることは、あくまでもクリエーターがソフトを作成するにあたって、ストレスがないような場所を提供すること(クリエーターがやりたいことがイメージどおりに実現できるような環境にすること)であると考えている。
年内に発売予定のXboxの次世代機では、良い映像、良い音、そしてオンラインの仕組みなどできる限りの環境を提供していく。また、進化するプラットフォームを標榜し、プラットフォームのポテンシャルを引き出すためのアップグレード用ソフトを継続的に提供していく予定でもある。
- 発売が2年遅かった(当時、ソニーのPS2が既に800万台発売しており、1強となることが見えていた中での発売だった)点
- Xbox用の有力なタイトルが無かった点。
この2点以外にも箱が大きい、デザインが日本向けでないなどの不評もあったが、上の2つがより重要だったと考えている。
この2つは、現行機が企画から発売まで1.5年しかなかったことにも起因しているだろう。これはつまりマラソンで実力のないランナーが、先頭ランナーが既に折り返しているところから、走り始めたようなものであり、次世代機では、開発期間に3年をかけ、前回の反省も生かして商品化している。
Xboxの開発は東京にも開発部隊を置き、日本市場にあったもの、日本からの提案を積極的に行っている。ゲームソフトの開発にあたっても、日本のXbox側で主導権を握りながら、ゲームソフト企業に提案を行い、面白いソフトをそろえる努力をしている。この努力がプラットフォームの価値を上げることに繋がると考えている。
また、プラットフォームビジネスのビジネスモデルの変化についても注目する必要がある。過去には、ソフトがロムからCDにかわったときには、発注のリードタイムが、2-3ヶ月から2週間に短縮、売り逃しや、過剰生産などを防ぐことができるようになり、海外でのビジネスも軌道に乗るようになった。
今後のこのようなビジネスモデルの変化としては、まずオンラインによるゲームコンテンツの配信が挙げられるだろう。物理的に難しいため、すぐに1本分すべて配信というのは始まらないだろうが、ゲームの一部をオンラインに取りに来るというモデルはあるだろう。
たとえばゲームの1,2章を1980円で販売し、続きはオンラインで購入するようなことがあれば、中古流通を防ぐこともできるし、ユーザーは面白かったら続きを購入できるのでより便利になる。ゲームソフトメーカーにとっては、大きなチャレンジになるが、こういったチャレンジはゲーム業界を継続的に発展させていくために必要である。
また、リプレイバリューを上げるような仕組みも必要。何度やっても楽しめるような新しい遊び方を提案する必要がある。ヒットソフトの続編だけを作ってもいつか飽きがくる。
これらの新しい仕組みや楽しみ方をプラットフォームの努力から提供できるようになるようにしていきたい。
ゲームソフトを開発する側が、チャレンジをする際に、たとえばXboxが次世代機で提供する予定のPCとコンソールの移植を容易にするソフトなどのように、できるゲームソフトを開発する側がチャレンジする際のハードル、コストを低くしてあげることがプラットフォームの役割だと考えている。