第3回 2005年10月3日 (月曜日) 開催
講演者 : 吉田就彦 氏
コンテンツアナリスト / デジタルハリウッド大学大学院客員教授
『ヒット学〜How hits happen?』
<講演者プロフィール>
1957年生まれ。早稲田大学理工学部機械工学科卒。キャニオンレコード(現ポニーキャニオン)で、音楽・映像・マルチメディアの制作・宣伝業務に20年間従事する。制作ディレクターや宣伝プロデューサーとして、「チェッカーズ」「おニャン子クラブ」「中島みゆき」「だんご3兄弟」等の数々のヒットを手がける。映画プロデューサーとしても、「教祖誕生」「KAMIKAZETAXI」等を制作。デジタルガレージに転職後、EC事業の立ち上げやコンテンツ・ビジネスのコンサルティング等を行う。著書に『ヒット学〜コンテンツ・ビジネスに学ぶ6つのヒット法則
』(ダイヤモンド社 ) がある。
<講演要旨>
ポニーキャニオンでプロデューサーとして数多くのヒットを生み出した経験、またデジタルガレージでのITを活用したエンターテインメントビジネスの経営にあたられた経験を活かし、ヒット学、つまりヒットを作るにはどうしたらいいか?ということを研究テーマにすえ、現在、デジタルハリウッド大学院のヒットコンテンツ研究室にて更なる研究に取り掛かっている。今後、全ての産業がコンテンツサービスビジネスとなるとの指摘から、コンテンツヒットが生まれるまでの顧客の心の変遷、20のヒット要因キーワード、ヒットを生む6つの法則等を普遍化、より多くのヒット生むために、またヒットを生み出すプロデューサーを数多く創出するために「ヒット学」というカテゴリーを提案している。
ヒットの過程と人の心の変遷を、広告理論にあるAIDMAのコンセプトのように、見つける(or 見つからない)→気持ちが動く(or なんとも思わない)→つい手が出る(or しばし静観する)→堪能する(or がっかりする)→また欲しくなる(or 飽きる)という5つの関門に分け、それぞれどこの関門を越えられていないのか、またどううまく越えてきたのかを分析する。またこの5つの関門を越えると始めの商品にたどり着くように、ヒットの好循環を生み出すことができる。
次に、ヒットの要因は、時代のニーズ、企画、マーケティング、制作、デリバリーの5つの項目に分けて考えることができる。この5つの項目について、楽しさと便利さを生むヒット要因のキーワードを抽出する。これらの20のキーワードは、あくまでも吉田氏自身の経験によるもので、これを全て兼ね備え、真似したとしてもヒットを生み出すことはできないと指摘する。プロデューサーは、それぞれ自分自身のヒット法則を見つけなければヒット作りはできないと考え、自身のヒット法則を確立するためのひとつのメジャーメントとして、ヒット要因や法則を提案している。
これらのヒット要因のキーワード20と、以下の6つのヒット法則との掛け算により、ヒットが生まれるのではないか、と考えている。ヒットの法則とは、以下の6つに集約できる。
- ミスマッチのコラボレーションがヒットを生む(合わないものを組み合わせることで出てくるエネルギーを使うと大ヒットする。例としては、イギリスのNEWWAVEテイストのビジュアルとアメリカの5、60年代の音楽性をミックスさせたチェッカーズなど)
- 明確なコンセプトがHITを生む(メッセージの強さは、気持ちを動かす、人を動かす、世の中を動かす。例としては、CHAGE&ASKA(おいしい結婚、101回目のプロポーズでのタイアップ。結婚というフックをつけて時代の気分の増幅を利用)。
- 常に新鮮な驚きがHITを生む(ハっとさせて好きにさせる。シャープの愛情ほっと庫などの例。社長の言う無理難題を解決する驚きの商品だけが売り出される)
- 継続性、連続性がヒットを生む(シリーズものなど。人の気持ちを握りながら広げていく。マーケティングノウハウの踏襲も)
- 付加価値がヒットを生む(なにか得した感じがしないとヒットにはつながらない。益々贅沢になってきている現代社会。付加価値をどうつけるか、どう次につなげるか)
- 顧客との会話や顧客同士の情報交換がヒットを生む(IT以後に出てきた法則。顧客同士の情報拡大スパイラルや、企業と顧客との需給適性環境の創出でヒットが実現)
そして、ヒットを生み出すには、関わる人やヒットシグナルを発見し、それをマネージすることができるプロデューサーの存在が不可欠である。(プロデューサーがヒットをオーガナイズする)このようなヒットプロデューサーに必要な能力は、テクニック的にEQ(Emotional IQ)やNLP(Neuro Linguistic Programming)等心理学的手法を使って高めることができるのではと考えている。たとえば、EQ測定による能力の形をヒットを生むことができるプロデューサーの形に整えていく、つまり能力を開発することでそのギャップを埋めることができるのではないか。また、プロデューサーの能力だけでなく、ヒットの基礎方程式もモデル化し、そのメカニズムを数理的に科学化できないか?ということも現在ヒットコンテンツ研究室を中心に模索している。
このようなヒット現象やヒットを生みだすプロデューサーの能力の研究を重ねていくことで、結果、日本のコンテンツ産業が発展し、より多くのヒットが生まれていき、世の中を楽しく豊かにしていくことに繋がるのではないかと考えている。
※参考文献;吉田就彦(2005) 『ヒット学〜コンテンツビジネスに学ぶ6つのヒット法則』,ダイヤモンド社刊.