第11回 2006年 12月14日 木曜日 開催
河島伸子氏
同志社大学 経済学部・経済学研究科 教授
「コンピューター・ゲームの改変と著作権をめぐる訴訟-日米比較」
<プレゼンテーション>
-
- テーマ:「コンピューター・ゲームの改変と著作権をめぐる訴訟―日米比較」
- デジタル化時代の文化産業が直面する経営戦略上の課題
- それに影響を与える政策的環境の問題
- 創造性の育成と創造的所産の普及という文化政策的目標
- 1.ビデオゲームの改変ソフトをめぐる2つの訴訟
- 今日の講演はコンソールでプレーする、ビデオゲームに焦点を絞る(オンライン、PC上のものは含めない)
- ゲームを改変するソフトウェアに対する訴訟
- ときめきメモリアルの例(日本)
- Galoobによるスーパーマリオ改変ソフトの例(アメリカ)
- 日米で違う形の訴訟が行われた
- ただし、問題は同じところにある
- もとのプログラムのソースは変えないが、画面上に出てくるゲームの展開が変わってくるような改変ソフトの違法性
- 訴訟を起こしたゲームメーカーの目的
- 損害賠償請求
- ソフトウェアの差し止め(映像著作物として認めてもらいたい)
- 2.日本における訴訟
- ゲームの捉え方によって、このソフトが著作権を侵害したといえるかどうかが変わってくる
- ゲーム=ソフトウェア(コンピュータプログラム)
- プログラムのコード自体に変化を加えると翻案権侵害(経済的な損害を問題にしたもの)、または同一性保持権侵害(著作者の人格や名誉の損害を問題にしたもの)で訴えることが可能
- ただし、この事例ではプログラムは変わっていないのでこれにはあたらない
- ゲーム=映像著作物(プログラムを走らせた結果を映像著作物としてとらえる)
- ソフトウェアと同じように翻案権侵害と同一性保持権侵害で訴えることが考えられるが・・・
- 翻案権についてはユーザーレベルで行われる私的な領域であれば許容されうる
- そこで、日本における訴訟の請求理由としては出力された著作物に関する同一性保持権を法的根拠として採用
- 訴訟において重要な点:改変が実質的に違法な程度にあったのか⇒著作者の意図したゲームのストーリー展開と改変ソフト使用時のストーリー展開との比較
- 最終的には、著作権者であるコナミが勝訴
- 「買ったソフトをユーザーが好きなように遊んで何が悪い」、というような反応もあったことが想像される
- 3.アメリカにおける訴訟
- Galoobがスーパーマリオのストーリーを変えて遊べるソフト(Game Genie)を販売
- 同一性保持権を含む著作者人格権は、アメリカの法律ではきわめて限定的
- 同一性保持権での訴訟は考えにくい
- そこで任天堂は、出力された表現を著作物として、この著作権に基づく翻案権侵害で訴訟を起こした
- USCA107条における「公正な使用」か、どうかがポイント
- 特に「著作物の潜在的な市場、その経済的価値をどの程度害したか?」が重要
- これは、アメリカの著作権法が財産法としての側面を非常に強く持つことを示すもの
- 最終的には、任天堂が敗訴、ソフトウェアの会社が勝訴
- 裁判所は、「そもそもマリオブラザースのソフトがあってこそ、改変ソフトが楽しめるのであるから、マリオの市場を侵害していなく、むしろより市場を広げているのではないか?」という判断
- 実際にも明らかに売り上げが落ちたことを示せなかった
- 特にアメリカにおけるこの分野の訴訟では、技術の発展・イノベーションを支持する方向の判決が出る傾向がある
- コンピュータプログラムに後から乗せる(add-ons)ソフトが、もともとのソフトに経済的なデメリットを与えることがあるのではないか?
- Stern(1992):任天堂とGaloobのケースにおいて、裁判所の「経済的損害がない」という判断は甘いという主張
- 特に、著作者がそのプログラムの改善版を開発している最中に、改変ソフトが新たな特徴を追加する機能を持っている場合。(著作者は現在のバージョンを売り切ってから改善版を売り出したいと考えていた)
- このような観点から、任天堂の主張が意味を持たないという判断は一概には正しくないのではないか?
- 裁判所の著作権に関する判断は、意図している、いないに関わらず、結果として産業政策への影響が出てしまう
- Winnyの例
- デジタル時代になって著作権のあり方が変わってきている
- 4.著作物の私的利用とmini-authorship(ミニ著作者)
- デジタル時代になってユーザーがミニ著作者になりやすくなった
- 創造的な活動として、改変(編集)が認められるかどうか
- 表現者の自由との関係
- カウチポテト型消費者(受動的)しか想定していない著作権法は、問題ないのか?
- 技術の進歩によってアクティブな消費者、インタラクティブ性を求める消費者が増えている
- 彼らの「下からの創造性」をどのように位置づけるのか?(保護、促進)
- 。
-
<質疑応答>
-
- Q Sternの主張のポイントは、改変ソフトについても元の著作者に独占権がある、という前提での判断ということか?
- A元の著作者が独占してよい(守るべき)ということかどうかではなく、任天堂にとって経済的な侵害がある可能性を示しているにとどまると理解できる。
- Q YouTubeの取り扱いが日本とアメリカでは違うと思うが、映像について日米でなにか違う点はあるか?
- Aアメリカのほうが法律がゆるいということは考えにくい。すぐ訴訟される可能性がある。日本とアメリカの差では、日本とアメリカとでテレビ番組の著作権のあり方が異なる(日本は出演者などがそれぞれ著作隣接権などを持ち、権利関係が複雑だが、アメリカではプロデューサーが一手に持っている)
- アメリカではプロデューサーによる訴訟が追いつかない、という状況ではないか。またアメリカでは、ナップスターの例からも共存を模索しているのではないか?
- A公正使用法理について、ブランド価値の毀損という問題もあるだろう。難しいゲームだからみんながチャレンジしていくのに、簡単にするソフトが出てきたら損害を受けるとも言える。任天堂のケースではこのような点に関しては触れていたのかどうか?また公正使用とパロディの関係についてはアメリカでどのように扱われているのか?
- Q任天堂の主張する任天堂カルチャーというものがブランド価値にあたるだろう。彼らは、クオリティ保証を徹底していることが任天堂を支えていると主張している。しかし、裁判所はほとんど聞く耳を持っていない、価値のない議論としか思っていなかったうえに、売り上げが落ちていないため立証できなかった(ブランド価値は訴訟において立証が困難)。パロディについては、アメリカの著作権上おもしろい論文や研究がたくさんある。かなり改変をすればパロディ(新たな著作物)といい、少しなら翻案、複製となる、そのボーダーは判例の積み重ねで形成されているが、時代、特にデジタル化前後で変わってきているのではないか。