コンテンツビジネス研究会は、テレビゲームなど娯楽性の高いビジネス産業に関する情報交換の場です。

第13回 2007年 4月24日 曜日 開催
東京大学ものづくり経営研究センター特任助手 和田剛明氏

「パッケージメディアの流通―90年代ゲームソフト小売事情を題材に」

<プレゼンテーション>

      • 今回は、3つのメディアのうちパッケージメディアに焦点を当てる
      1. パッケージメディア
        1. 物理的に消費者に伝達する
        2. サプライチェーンマネジメントが必要
      2. 放送メディア 
        1. 消費者にとって追加的なコストが低い(またはゼロ)
        2. 送信のインフラ投資が大きいなど、参入障壁がある
        3. コンテンツの流れが送信側からの一方向
      3. ネットワークメディア(インターネット配信メディア)
        1. 製造・流通過程がない
        2. 参入が容易
        3. 消費者と双方向、オンデマンド、検索性が高いなどパッケージメディアに対し、優位点を強調する論調
      • では、パッケージメディアは衰退するのか?
      1. ネットワークメディアによって完全に代替されないのではないか?
      2. 消費者は使い分けているのではないか?
      • ゲーム市場、音楽市場のデータ確認、そしてAmazonの進出で起きたこと
      1. 完全にはネットでの購買に移行しない(ネットワークメディアに移行しない)
      2. 実店舗での購買の要因に「慣れ」以外の要因がないか?⇒実店舗には特別な価値があるのではないか?
        1. インターネットにも欠点があるはず(ウィンドウショッピングの楽しみがない、情報量が多すぎるなど)
        2. ロングテール現象の解釈→一般の消費者に情報を提供する「エージェント」の必要性がより高まる
          1. 評価に中立性を保つ必要性(書き込みなどの客観性の欠如)
          2. ここに実店舗が有効・・・実店舗の目利き機能
      3. 以下では、オンライン流通と小売店の間の競争、すみわけをゲームソフトの例を使って考察する
      • 目利きとしてのゲームショップ
      1. 目利きというポジションは、実際現状のゲームショップの目指す方向性とも一致
        1. 顧客とのコミュニケーション強化
        2. ゲームの説明できる店員
        3. 目利きしたものを売り込む演出
      • ゲームショップの目利き能力構築の歴史
      1. 半導体製品であったROMカセット時代は、ゲーム産業全体が現在とは異なるビジネスモデル
        1. ゲームショップは、中古ソフトビジネスがその発端→ソフトの評価を把握する力が蓄積
      2. ゲームショップ成長期には、中古と新品両方を扱い、メーカーとも良好な関係を築けた
      3. 混乱期:「仕入れる権利」のやりとりがされ、ゲームショップ間でこの権利の融通をすることもあり、相場師的なプレイヤーが参入し、相場が乱高下
        1. ソフトを正確に評価し、実需動向を把握し、適正価格で仕入れられなければ生き残れないので、ゲームショップに評価力が蓄積
      4. SCE時代:CDROMになったため、小ロット、短期間リピート生産が可能になり、流通構造も整理される
        1. 小売店の粗利が低くなり、堅実な商売が求められる
        2. 売り上げランキング上位に入ることが確実な有名メーカー、シリーズの定番商品を重視した仕入れに変化(どれも同じ利益率なので、「安いが売れる可能性のある“当たりソフト”を引き当てる」必要はなくなる)
        3. 在庫はそのまま小売店のコストになり、命取り
        4. 結果としてこれまで培ってきた「目利き力」が低下?
        5. ゲームソフトの売れ方も、口コミ型から、最初にピークがある「有名効果型」へ
      • まとめ
        • オンラインでの流通が浸透する一方で小売店の目利きとしての役割は重要になってくる
        • ゲームショップは、目利き的な機能の提供を模索
        • 目利き機能は長期的な発展に不可欠
      1.  

 

    <質疑応答>
      • Qソニーの時代になって、なぜ目利きの能力が低下したのか?そのロジックとは?(いずれにせよ、どれをどれだけ仕入れるかというリスクが存在することには変わらないはず)
      1. Aどちらも目利きは重要。ただ任天堂時代はリスクテイクをして、一般的には発掘されていないような、隠れた当たりソフトを引き当てる目利き力が必要であったのに対し、ソニー時代は、必ず当たる商品を選ぶという意味での目利き力になっている
      • Q任天堂の時は利幅が大きくてソニーのときは固定されているので、任天堂のほうがリスクを取れたから、任天堂時代のほうが品揃えに目利きの力を活かしていたということか?
      1. Aそうだとおもう。ただ、任天堂時代にも失敗した小売店はいっぱいある。ただ任天堂時代のほうが(工夫のしがいがあり)夢があった、という話をよく聞く
      • Qゲームショップが減っている要因は、ネット流通に代替されたからと考えているのか?専門店の現象は、市場の縮小と、量販店(における安売り)の台頭の影響のほうが大きいのではないか?
      1. A複合的な影響があると思う。量販店の台頭も確かに存在するが、ゲームショップ側としては、量販店が損を出してもゲームを売っているので、勝負の相手ではないという認識があるので、ライバルとして考えているわけではないので、ここでは、ネットの影響を中心に取り上げている
      • Qこれらの議論はゲーム産業にはいえるが、コンテンツ全体にいえるかどうかは疑問ではないか?
      1. Aたしかに、そのご指摘は妥当だと思う。今回の結論はゲーム産業の商慣行なども影響していると思われる
      • Qネットに対して目利き以外の付加価値を小売店が持たなければ難しいのではないか?(ネットでの目利きも最近は効果的になっている)
      1. Aそのもうひとつの付加価値は、演出ということだと思う。イベントの開催など。
      • Q目利きの力を定性的、定量的に評価することはできるのか?小売店においてそのような基準を設けたりしているのか?
      1. A主観的な部分が強いと思う。客観化する動きはあるので、コンビニの仕入れと同様に、広告料や、前作の販売量、メーカーの有名度などでランク付けしている
      • Q(ネットでの書き込みなど)関係者からの評判には客観性が欠けるというのは、真実だろうか?アップルのファン気質の例のように、作り手側の思い入れが強い商品が消費者を納得させ、コミュニティが広がり結果として売れているということもあるだろう
        • Aしかし、作り手主導でコミュニティの結束を強めていくと段々と閉じた世界になり、結果としてシリーズ物に偏ったり、内容が固定化、マンネリ化していったり、という側面もあると思う