第14回 2007年 6月20日 水曜日 開催
著作家・翻訳家 関根直樹氏
「中孝介に見る日本人アーティスト 海外(アジア)進出成功の可能性」
<プレゼンテーション>
- 10年近く日本人アーティストの海外、特にアジア進出に携わる
- 今回は実務面での経験を踏まえた話をしていく
- 日本人アーティスト アジア進出の歴史
- 80年代後半―90年代初頭
- 香港アーティストによる日本語曲のカバー(現地の作家が足りなかった)
- バラードは特にアジア共通でリスナーに訴えるものがある
- 音楽出版社の権利面でのトラブルは少なかった
- 香港(広東語)のアーティストが歌う北京語バージョンが東南アジアの中国語圏へ波及
- 日本側が積極的に仕掛けたというよりも、現地からの要請による進出
- 90年代前半
- 日本側の積極的なアプローチで日本とアジアのヒットの時差を埋めていく
- カバーだけでなく、オリジナル楽曲、アーティスト自体を売り込む
- チャゲアンドアスカなど
- 90年代中盤
- 香港のマーケットがカバーからオリジナルへ脱皮
- 人気バンドの来日による事故死から、反日本カバーの動き活発化
- その結果香港から台湾に主戦場が移る
- 90年代後半
- 94年から日本のテレビ番組放送が可能に。そこから
- ドラマの主題歌
- 日本のキャラクター
など日本文化がCoolなものとして認知
- 97年小室ファミリーが日本の絶頂期に台湾でも公演、直接認知される
- 90年代後半〜2000年代初頭
- 宇多田ヒカルの大ヒット
- 日本のドラマ、映画が同時、同内容の放映が始まり、主題歌を後押し
- ネットによる音楽情報の流布(今日のスポーツ新聞の内容が夕方には翻訳されて現地に)
- 現在
- 韓国財閥系企業がエンタメの育成を後押し(ハードとの融合を視野にいれながら)。音楽面では韓国ではK-PopがJ-Popをしのぐ勢い
- (特に中国の)違法サイト、海賊版などが合法的な製品の売り上げに歯止め
- 過去のアジア展開成功例と傾向
- 山口百恵
- 圧倒的なカバー楽曲数
- 中国には一度も行っていないが、海賊版によるドラマとバラード中心の曲が受けた
- 酒井法子
- 現在も中華圏でも活動
- 歌手というよりはアイドル的存在(台湾ドラマ、CFにも出演)
- ドラマ、CFは曲の発売よりも難易度が高い
- その意味でも相当な成功と言える
- 小室ファミリー
- 日本との時差がないヒット、人気のピーク
- その半面、短命に終わる
- ウェブを利用した情報発信を活用
- ラルク・アン・シエル
- 2005年、実際に関根氏がアジア(ソウル、上海)ツアーに帯同
- 各1万席、計2万席が完売
- 高いチケットにもかかわらず売り切れる
- 日本と同時発売をすることで海賊版の減少を狙う
- ポップなロックがアジアのユーザーに受ける
- ネットによるプロモーションが成功
- 中孝介
- インディーズで3枚アルバムを出した後、2006年3月にメジャーデビュー
- 2006年5月には上海で公演、好評を得る
- 2006年8月に香港の俳優、アンディ・ラウが広東語カバー
- 中国のアーティストとデュエット
- 作詞・作曲は日本人(MISIAのEverythingを作曲した作曲家)
- 一部を中国語訳
- この曲を含むアルバムを日本に先行して台湾で発売
- 台湾映画にも出演
- その他台湾のイベントなどにも出演
- 日本よりも台湾が先行して認知、人気を得る
- レーベル内に事務所があり、K-popアーティストのような機動力も奏功
- 海外進出に求められる必須条件とは?
- 言語能力?⇒ ないよりはあったほうが
- 普遍的ルックスアピール? ⇒ わるいよりは、いいほうが
- 歌唱力?⇒ ないよりはあったほうが
- レコード会社・事務所の理解? ⇒これがないと、実際動かせない 事務所が「うちは海外はいいや」などと言うとこれ以上進まない
- 本人の意思? これも必要
- 異文化への適応力?⇒ 最低限必要
- 独創性?⇒ 歌い方、独特の日本的な表現方法
- 潤沢な予算?⇒ ないよりは、あったほうが
- 外人であること?⇒ 日本にいる外国人を日本から外国に輸出する、またはその逆というのもあるだろう Monkey Majikの例
- スケジュールを含めた意思決定のスピード?⇒ これはかなり大切
- これらの条件のほかに何が大切か?⇒ これらの条件の中でどれが特に大切か?などは議論の余地があり、またケースによって異なるだろう
- Q 日本でアメリカのポップスがはやった時代(プレスリーなど)から、日本人のポップスが主流を成すようになり、アメリカのポップスが昔ほどの勢いや、アメリカのアーティストに対する憧れが少なくなってきている。ただ、アジアであれば、共有できる部分も多いと思うので、構えずに、日本のヒットをそのまま持っていけばいいと思う。
- (関根氏)レコード会社としても、日本で受けたアーティストをアジアに輸出するというのは、これまでのスキーム。まずは国内というのは、根強い意識だろう。また、売れる確率もかなり高い。ただし、一部に売れないジャンルもあることはある。一方、日本で既に売れたアーティストが海外に進出する場合には、スケジュールのやりくりをする費用対効果が低くなり、フットワークが重くなってくるというジレンマがある。これまでの経験から、このジレンマを抱えていたので、中孝介のように日本での新人を海外に連れて行くことで、機動性を高めたアプローチが可能になったという面もある。欧米などでは、日本のヒットを持っていくというよりも、Puffyのように日本文化の柱であるアニメ発信でのヒットという切り口など、アジアとは別のアプローチになる。
- Q 私の所属しているタカラトミーとしても、日本の製品を海外で売る、またはその逆を昔からやっているが、ベイブレードという製品では、日本だけでなく、アメリカでもヒットをした。このときに学んだのは、売れるものはどこにいっても売れるということだとおもう。ただし、アジアでヒットした商品が日本で売れない、日本で売れなかったものを韓国にもっていくと売れるなどの事例もたくさんある。どこにその線引き、法則があるかはなかなかわからないが、日本でも、海外でも消費者ニーズを分析して、それに合わせた商品を売っていくという手法自体は変わらないのだと思う。
- (関根氏)音楽と共通していると思うのは、海外を狙ってこういうものが受けると考えて制作するよりも、いいものを作っていくほうが、後々無理がない。たとえば純日本文化を体現している「鼓童」の例は、日本でも受けるが、海外でもかなり受けた。逆に、日本人が英語アルバムを出す、アメリカではやっているジャンルを取り入れる、など海外市場に迎合した形にしても二番煎じになってしまい、日本文化を感じられなくなり逆に売れにくくなる。そういう意味では、海外進出にあたって言語能力は必須ではないとおもう。それよりも、Something Japaneseを見せなければいけないのではないかとおもう。
- Q 製品を作るとき、売り出すときに、将来的に世界のどこでも通じるようなものを作っていくことが必要、理想なのか?
- (関根氏)同じものでいければ、確かにいいのだが、できるならばその国の言葉で売るほうがいい。それにあわせてなにか日本人アーティストのオリジナリティを核としていくほうがよいのではないか?
- Q 普遍的なものか、Something Japaneseがいいか、もしくはどのようなバランスなのか?中国語、日本語、英語の3つの言語のミックスされた歌をデモンストレーションされたが、確かに英語の歌詞の部分は、日本人でも中国人でも意味はわかるが、なにか心に感じるものがない。それはたぶん、英語を日常的に使っていないことからくる繊細さが欠ける部分、キメの荒さからくるのではないか?最大公約数的なものを求めつつも、なにかクセ・アクのようなものをどうブレンドするか、が重要ではないか?
- (関根氏)たしかに、次回作では、折衷案的な英語を除いたものになるだろう。やはり、日本語、中国語のほうが訴えかけるものがある
- 関根さんのご意見には賛成。たとえば豆腐のように、日本人は冷奴、中国人はピータンを乗せる、アメリカ人は豆腐ハンバーグにしてハンバーガーにしてしまう。同じように、アーティストという共通の素材をどのように売っていくか、のアレンジは変わっていくところだろう。そのアレンジ方法などにどのような正解があるのかが悩みどころだろう。このあたりで、他産業の海外展開の事例などが活かせるのではないだろうか