コンテンツビジネス研究会は、テレビゲームなど娯楽性の高いビジネス産業に関する情報交換の場です。

第19回 2009年 5月25日(月) 開催

位置情報コンテンツの可能性 〜ヤフーの実験的な取り組みから

ヤフー株式会社 R&D統括本部 開発リーダー
河合太郎氏

日時
 2009年7月31日(金曜日) 18:30〜21:00
※ご講演は、19:00からになります。
 
場所
東京大学COEものづくり経営研究センター
 

[講演要旨]
 「ヒト、モノ、ハコが世界のどこにあるのか」を示す位置情報は、コンテンツ
の従属的な付加情報に過ぎないと従来考えられてきた。
 位置情報はどうやって主体的なコンテンツ足り得るのか。その現状と未来につ
いて、Yahoo! JAPANの位置情報実験サイト「LatLongLab」および「ALPSLAB」の
取り組みを題材に考察する。
http://latlonglab.yahoo.co.jp/

[ディスカッションテーマ]
・あったら面白いこんな位置情報コンテンツ/サービス
・位置情報コンテンツはマネタイズできるのか?


〔プレゼンテーション〕
1. 位置情報とは
地図と点、線、面による位置・区間・区域の指定を組み合わせることによって、「○○時にAさんがいた場所」や、「降雨量が○○ミリ以上の地域」といった情報を表わすことができる。これらの位置情報はそのままでは単なる「事実」「属性」である。

「何(駅・店・人など)はどこにある?」
「ここは何(どういう名前・評判・予約状況など)なのか?」
といった「何」と「どこ」、「どこ」と「何」の関連付けを行い、ニーズに応えるコンテキストを与えることによって、位置情報コンテンツとすることができる。


2. LatLongLab・ALPSLABの事例紹介
位置情報コンテンツとして実際にどのようなものがあるのか、講演者が開発に携わってきたものを事例として紹介したい。

(1) ALPSLAB route(http://route.alpslab.jp/)
道案内、ツーリングコースなど「ルート」を簡単に作成・シェアするサービス。
ルート作成時の道ピタ(2点を指定すると、道の上に自動的に描線する機能。Webサービスで初めての実装)といったユーザーがコンテンツを作る機能、ルートの再生時のプロファイルマップ(標高変化図)の表示といったユーザーにコンテンツとして魅せる機能が充実しているとともに、ユーザーが作成したルートを投稿し、ブログ記事のように他のユーザーも閲覧・共有することができるコンテンツの流通性が特徴である。
ユーザーは自分でルートを作成、チェックするだけではなく、他のユーザーの作ったルートを参考にすることもできる。現在、ツーリングコースを調べたい自転車愛好家などに好評を博している。

(2) 猛レース(http://latlonglab.yahoo.co.jp/race/)
複数のGPSログを、同時にレースゲームのリプレイのように再生するサービス。
実時間を共有しなくても、「ジョギングの昨年の自分と今年の自分のログ」、「電車通勤と車通勤のログ」、「多人数が参加し、それぞれが時間のある時にコースを走ったログ」といった組み合わせで仮想的に競い合うことが可能。
現在のところマーケットとしてニッチ的であるものの、使っているユーザーは頻繁に使っている傾向にある。

(3) うごけ!道案内(http://latlonglab.yahoo.co.jp/macro/)
地図の操作を記録して再生する機能に加え、簡単な投稿インターフェースで途中にコメントを出したり、選択肢や乱数の結果で条件分岐させたりする設定をすることを可能としたサービス。
用途は様々であり、道案内という基本的な使い方以外にも、発想次第で様々な使い方が可能である。小説の舞台を地図上で追いつつコメントで解説を行う、ボタン選択・分岐をつかってクイズ、RPG、すごろくなどのゲームを作り、投稿・公開することも可能である。

(4) ぽ地図(http://latlonglab.yahoo.co.jp/pochi/)
地図上の文字を全てクリック可能にした地図。クリックした店舗の情報を、様々なソースからアグリゲーションして表示する。
いままでは地図で検索した場所について知りたい場合は、画像から文字を読みとり、別枠の検索窓を立ち上げて入力するという追加の作業が必要であった。この煩雑な検索へのアンチテーゼとして、地図を表示して気になる場所があったらすぐ情報にアクセスできるようにした。
現在は、各種グルメ情報サイトなど外部のソースから情報を取得して表示するのにとどめている。一歩進んで、ヤフー側で各店舗に書き込み可能な掲示板を設置するなど、コンテンツをぶら下げる場にすることは検討中である。


3. 位置情報コンテンツのためのより良い環境
多くの位置情報コンテンツは本来プラットフォームフリーのはずであり、ユーザー便益の観点からも理想は共通フォーマットでのコンテンツ提供が理想である。だが、なかなか実現しない。
その背景には、マネタイズの観点からサービスの囲い込みによる独自サービスの提供が選択されること、各サービスが構築してきたデータに互換性がなく、名寄せが困難でコストがかかることがある。
今後は、データの集約を行うアンカーページを提供するサービスが立ち上がることが望まれる。具体的には、各店舗に永続的でユニークなIDを割り振り、各サービスに分散している情報を統合できるかたちに変換するサービスである。

コンテンツそのものに目を向けると、Web地図は紙という静的で限りのある媒体に情報を描き込むという旧来の地図の発想から本質的に脱却しきれていない。拡大・縮小、更新が自在にできるWebの特性を活かしてゆく必要がある。地図のスクロール・ズームが画面切り替えなしでできる、全ての注記がクリック可能で、用途にあわせ切り替えられる、リアルタイムで切り替わるというように、動的なコンテンツへと発展させていかなければならない。
また、写真を撮った場所、旅行の行程など個人の位置情報は有力な位置情報コンテンツになり得る。だが、個人情報の保護の制約、デバイスやインターフェースの問題があり、ほとんどWebに集約できていない。位置情報を記録する安価なデバイスと、Webに簡単にデータを投稿できるインターフェース、そして魅力的なサービスを提供することができるかが、今後の鍵となるだろう。
位置情報コンテンツの今後の発展において、できるならばそのきっかけとなるサービスとなるよう努力していきたい。


<ディスカッション>
ディスカッション・テーマ
「あったら面白いこんな位置情報コンテンツ/サービス」
「位置情報コンテンツはマネタイズできるのか?」

ヤフー版ストリートビュー
位置情報を使ったゲーム
イベント会場でどこに人気が集中しているかの表示
車両の位置による渋滞情報の表示
ツール・ド・フランスのような広域競技の選手位置のリアルタイム表示
ローカル・近距離の位置情報
例:スポーツでの全選手の動きの記録とリプレイ
・「テレビで映らなかった動き」の観戦
・コーチングへの活用

ルート案内サービスに、現場の写真や、道路が広い・狭いといった解説テキストの表示といった付加情報が欲しいといった意見があった。

報告でも述べられていたが、これらが実現するにはいくつかの前提条件が必要である。
具体的には、(a)本格的にビジネスとして立ち上げる主体が登場する、(b)位置情報を取得するためのインフラが整備される、(c)個人に対する小額課金のシステムが整備される、(d)コンテンツに親和的なデバイスが普及する、(e)位置情報を常時通信する際の電力消費問題が解決される、(f)匿名での位置情報取得など個人情報保護に抵触しない情報収集システムの構築がなされる、といったことが必要である。
ヤフーとしては、ページごとのマネタイズをすることを目指し、エンドユーザーのニッチにひとつの可能性をみいだしている。マーケティングツールとしての活用、ゲーム的コンテンツのように事業分野の壁があるものは、しかるべき提携相手がいれば実現可能だろう。


<質疑応答>
Q. 現在提供しているコンテンツで最もアクセスが多いコンテンツおよびその要因は何か。
A. ALPSLAB routeが一番である。代替するサービスが他になく、マーケットとしては自転車愛好者などニッチ層がターゲットだが、ニーズが集中している。

Q. 位置情報コンテンツ開発のプロセスはどのようなものか。
A. フロントエンドとバックエンド、デザインなどが小さいチームとして一カ所に集まり、フリーで意見を出し合う。スクリーニングをかけ、残った1割ほどに対して素早くプロトタイプを作り、かたちにしてさらに意見を積み上げて正式なサービスにしていく。
このように、マルチタレントで互いの仕事が判る人材を揃えていることが納期の短縮に繋がっている。ALPSLAB時代にはピーク時は月に一本ペースで開発していた。

Q. データの収集、集約が実現すると、データが過多にもなり得る。ピンポイントで必要なデータを提示するインターフェースが重要になるのでは。
A. ユーザーの興味関心は、店の名前を知ったら、次に評判を知りたい、というように瞬間瞬間で切り替わる。さらに、いま興味関心がどこにあるかはアクションをしてくれるまで判らない。ユーザーのニーズをリアルタイムに分析し、最適化表示するエージェントを試行錯誤している。