第23回 コンテンツビジネス研究会
「日本市場におけるオーストラリア世界遺産プロモーションの展開と課題」
- ご講演者
- (株) ツーリズム・マーケティング研究所
客員研究員
野村尚司氏
- 開催日時
- 2010年1月22日(金曜日) 19:00〜21:00
- 場所
- 東京大学COEものづくり経営研究センター
日本人海外旅行者数は2000年をピークに低下傾向が続いており、特に若年層の旅行離れが問題となっています。訪豪旅行者数も減少に歯止めがかからず、オーストラリア観光促進にあたりキーメッセージを「オ―ストラリアの世界遺産」に据えたプロモーション活動を展開してきました。オーストラリア・カンタス航空の企画・マーケティング部門での実務経験を踏まえ、その現状と課題についてお話しすると共にアニメ作品「魔女の宅急便」等を例に「アニメツーリズム」の可能性にも触れます。
〔プレゼンテーション〕
- ご略歴
- 専門:航空マーケティング
カンタス航空にてマーケティング分野での販売促進に従事 - ■世界遺産プロモーションの背景
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- 背景として、日本人海外旅行人数の減少傾向がある。海外旅行人数は2000年をピークに減少傾向が続いている。理由の一つは若者の旅行離れ、そして、ターゲットを若者層(〜39歳)から中高年層(40歳〜)に移りつつある。
- 日本人の海外旅行推移
- 1964年:年間12万人
- 1964年:海外旅行自由化。当時、$1 = \360
- 1970年:大阪万博、ボーイング747デビュー
- 1980年:約400万人
- 1980年後半:円高進行→旅行ブーム
- 1990年〜:バブルが崩壊していく過程でも旅行者は続伸。
- 2000年:ピーク、1,782万人。その後減少。
- 2009年:1,530万人程度。
- 海外旅行率の推移では、近年、20歳代の女性の旅行率が大きく減少している。一方、40歳以上は堅調に推移。40歳代男性は業務渡航が多くなっており、アジア新興工業国を中心に増加している。若い女性をターゲットにしていた観光産業が、一番大きな落ち込みになっている。
- 日本からオーストラリアへの旅行者は、過去5年間にわたり減少し、日本市場でのオーストラリア・シェアも減少している。人数は、2000年70万人→2008年45万人→2009年36万人(推計)。同様にシェアも減少している。
- 旅行=高額な消費財であるため、高額な出費に見合いだけの満足を得るために厳しい選別が行われている → 旅行者の「目利き」化が進んでいる。
- 戦後の海外旅行は、三つの時期に分けることができる。
- 第一期(1964年〜1990年)「十把一絡げ」添乗員同行で複数の国を周遊。完全なパッケージツアー。一生に一度の大旅行。
- 第二期(1991年〜2000年)「十人十色」ホテルと航空券を手配した個人旅行が増加。価格が下落してくる。
- 第三期(2001年以降)「一人十色」旅行スタイルが多様化。価格がさらに下落する。
- 将来は、多様化時代がさらに進展すると考えられる。
- 目の肥えたリピーターが増加している。2007年1年間に海外旅行に行った人を見ると、10回以上の旅行経験者48.4%。1997年の32.5%と比較すると大きく増えている。しかし、オーストラリアはリピーターが少ない。反復利用を喚起することが必要である。提供する情報の充実が、質・量ともに重要になる。
- マーケティング手法としては、プッシュ・プルからアドボカシーへ変えていかなければならない。
- アドボカシー(支援・擁護):顧客や見込み客に対して中立的な立場で支援・擁護することにより信頼を得るステークホルダー論的アプローチである。世界遺産はユネスコという「中立な組織」が選定しているため、アドボカシー戦略と親和性が高いといえる。
- ■世界遺産プロモーション
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- オーストラリア政府観光局では世界単一キャンペーンを実施した。しかし、日本では不本意な結果になっている。そこで、「体感するオーストラリア世界遺産」キャンペーンをスタートさせた。
- オーストラリアには、17の世界遺産があり、うち自然遺産が15ある。オーストラリアの大きさ・多様性を訴求する「イメージ強化としてのアイコン」として自然遺産を利用することができる。
- プロモーションスケジュール
- 2007年9月〜2008年12月(フェーズ1):世界遺産を「トリガー」としてイメージ強化のアイコンとした。ウェブ、マス媒体、タイアップ記事、航空会社・旅行会社との共同プロモーションを行う。インターネットでは、バーチャルな世界の人をリアルに海外旅行体験させる仕掛けを作った。
- 2009年以降(フェーズ2):内容の深化。イメージキャラクターとしてジョン・カビラ氏を起用し、世界旅行博でのプロモーションをおこなった。また、渋谷でラッピングバスによるプロモーションをおこなった。
- プロモーションの成果と課題
- 認知率・旅行意欲面などでは明らかな改善がみられ、参加旅行会社でのオーストラリアに対する社員の認知・モチベーションの向上にも寄与した。また、小学校での世界遺産に関する授業により、生徒と親の世代で海外世界遺産訪問意欲が高まってきている可能性はある。
- しかし、負の側面として、「世界遺産」イメージの陳腐化の危険性がある。高年齢層世代は豊富な旅行経験から、各世界遺産の内容を吟味し、旅行先を決定するだけの深い判断がなされている可能性がある
- 市場ニーズの多様化に追いつくことができるのか
- 旅行者の興味が細分化しているが、アニメに取り上げられた場所を訪問する旅行者もみられるようになった。例えば、魔女の宅急便(1989)に関して、オーストラリア・タスマニア州ロスの街にモデルになったパン屋さんがある。そのパン屋さんは宿泊施設(Bed and Breakfast Accommodation in Tasmania at The Ross Bakery Inn)として営業もしている。
- 埼玉県鷲宮町では、「らき☆すた」というアニメを使った町おこしをしている。らき☆すた効果によって、鷲宮神社の初詣は、2008年30万人→2010年45万人と増加している。アニメに登場し、インターネットやテレビ、紙媒体による観光情報の流布を得て、ファンが「聖地巡礼」の旅を開始する。街としては何もしていないのに、なぜか勝手に盛り上がってしまう。
- ただし、企業などの作為的な仕掛けが見えたとき、オタクは「引いて」しまうので、注意が必要といえる。
- ■ディスカッションテーマ1:
- 「世界遺産」も「アニメツーリズム」も多様化した旅行アイテムの一つである。他国観光産業も同様のアイテムで販売促進を加速させている。海外旅行の促進で、企業は何ができるだろうか?
- オーストラリアを舞台にしたアニメーションを放映するということはありうると思う。撮影地として実写でも成功した例があれば、それに乗せるのもありだと思う。
- ドラマを誘致する、映画を誘致する、雑誌、テレビの旅番組などはやれているが、アニメーションの利用に対しては無策である。2001年に「流星花園」というドラマがヒットしたときに台湾への旅行者が増えたが、アニメーションでも同様の効果は期待できるのではないか?
- 「聖地巡礼」を海外旅行に使うのは難しいのではないか?「らき☆すた」が好きな層は、優先的にお金を使うのは映像ソフトだろう。彼らは、国内の旅行であれば行くだろうが、高額の海外旅行には行かないだろう。
- ポケットモンスターの劇場版は、毎回海外にロケハンに行くが、観光に寄与しているかというと難しいかも知れない
- 映画の舞台、大河ドラマの舞台は観光特需になるが、ピンポイントであっても一回フックがあると良いのではないか?
- 大河ドラマでの朝の連続ドラマでもキャンペーンをやる。アニメという切り口にしてしまうと、年齢層も対象も絞られてしまうが、ドラマを見て引き込まれてしまう
- ■ディスカッションテーマ2:
- コンテンツビジネスは中高年層に対してどのようなポテンシャルがあるのか?
- 海外旅行は高額商品なので、比較的近場の町おこしレベルでないと難しいのではないか?
- 中高年向けの市場は将来性があるのではないかと考えている。コミックマーケットも広がっている。10代〜30代が増えている段階である。
- エピソードの積み重ね。作品についても、リアルタイムで見ているひとが行っているわけではない。何かしらのエピソードを持っている。コンテンツの使い方はある種の刷り込み。引きつけるものとして残っていくことだといえる。
- 修学旅行先としてオーストラリアが増えているのなら、そのときの思い出を使ってみるのもいいのだろう。
以上