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第33回 2011年 2月4日(金) 開催

「イノベーションとしてのCG―微視的視点からの考察―」

報告者
文京学院大学 経営学部 准教授
生稲 史彦氏
日時
 2011年2月4日(金曜日) 19:00〜21:00
 

[講演要旨]
イノベーションの発生、発展、普及が既存研究が多く積み重ねられてきた。
この研究は、コンピュータを用いた画像表現―CG―を研究対象とし、微視的な視点、すなわち、個人史の蓄積というアプローチで、 この問いに答えようとする 試みである。
今回の発表では、現時点で収集された個人史を紹介し、CGというイノベー ションの発展過程を明らかにするアプローチが有効であるかを 検討したい。そして、今後の調査、研究をいかに進めていくべきかを、参加者の皆さまと議論 したい。

 

[当日報告資料]
議事録の代わりに、報告資料のpdfファイルを掲載しております。
報告資料(pdfファイル)

 

[質疑]
Q. イノベーションが破壊的(分断的)なことで企業がつぶれてしまうということがあるが、CGを見ると個人は身軽であり、 大きな損をすることなく、うまく移行している。大きな企業でもなぜできないのか。
A. それが今日の発表で提示したかったことの一つである。これまでのイノベーション研究の焦点の一つは、既存企業が どのようにマネジメントすればイノベーションの影響の下で生き残るか、ということだったと考える。既存研究によれば、そもそもそれは 非常に難しいという知見もある。具体的には、企業組織内の「正当化」の必要性、企業組織の認知的バイアス、企業組織の慣性などによって、 意思決定が歪められ、イノベーションを実現したり、それに対処したりすることが難しい、といわれている。
 他方、個人であれば、おっしゃるように「身軽」であるため、企業、特に大企業の中で生じるようなイノベーションを実現する、イノベーションに 対処するためのこれらの障害は低いだろう。したがって、個人という社会的主体がいかにイノベーションに向き合ったのかを記述し、考察する ことで、イノベーションを違った角度から考察できるのではないかと考えた。具体的には、個人がイノベーションに参加するという現象に みられる、特長、課題、他の社会的主体との関係などを理解したい。
 ただし、個人であれば、容易にイノベーションに参加したり、対応できたりするかというと、そうでもない。今回紹介した方々はCGという イノベーションに参加したり、対応したりできた方々、成功事例だった。だが、CGの世界においても死屍累々だったという話も聞いている。 今後の研究では、そうした失敗した人々に目を向けることも大事だと思っている。

Q. 小山氏は企業でどのような位置で、どのように情報収集していたのか。
A. 小山氏の企業内での位置づけは、あくまでディレクターやプロデューサーといった番組の製作者だったと認識している。 ただし、個人的に新しいことを求めており、積極的に学び、製作の仕事を通じて外部のクリエイティブな人々との交流をしていた。そこが、 今回報告ししたように、CGというイノベーションに参加できた要因ではなかったかと考える。
 また、小山氏がおっしゃっていたことだが、昔のテレビ局は外に向かって「開いていた」が、それに比べると現在は外に対して「閉じている」 そうである。小山氏の事例に則して言えば、かつては上司から「外にいい人がいるから使っていいよ」と言われていたそうだ。そのようなカルチャーが 1980年代のテレビ局があったからこそ、小山氏のような姿勢、考え方、行動を取った人が、企業の中で活躍できたと言えるのではないだろうか。

Q. 実写においても、円谷プロで円谷英二氏が独断で高額なものを買って大変なことになったということも聞いたことがある。 映像産業にはそのような事例はあるのではないか。マンガにおけるCG(事業)にも関心がある。
A. 円谷氏のエピソードが該当するか分かりかねるが、イノベーションの初期に参加する人々や企業が、「身の丈に合わない」 機材を買う、投資をすることはあると思う。小生が調査しているゲームソフト産業では、ハドソンの創業者である工藤裕司氏が、アメリカから 高額な機材を購入し、新しい技術に取り組んでいたという話がある。経済合理性や、企業組織内の論理だけに依らず、場合によってはそれらを 度外視して、投資を行えることが、個人や小企業がイノベーションに参加する際のメリットとも言えるのではないだろうか。
 同時に、これからの研究では、他分野にも目を向けていきたい。たとえば、映画は早くからCGの利用が始まった。映画やマンガを含め、 広い意味で映像産業を対象にして、クリエイターやその周辺の人々の個人史を積み重ねていきたいと考えている。

【コメント】 イノベーションの成功の度合いとして、「規模感」が伝わってくるとビジネスサイドからするとわかりやすい。 そして、投資に対するインパクトが出てくると興味深い。また、企業がどういう動きをした時にブレークスルーが起こるのか分かると面白いと 思った。  

Q. 新技術に対応するために失敗するということはある。飛躍するためのリスク削減と、目先のことに対応するリスク削減を 分ける必要があるのではないか。
A. 不確実性が常につきまとうイノベーションだからこそ、不確実性に由来するリスクをいかに捉え、コントロールし、 削減するかが課題になると考える。イノベーションに参加することに伴うリスクを少なくすること、すなわち「飛躍するリスクの削減」と、 イノベーションが生じたときに目先の対応に終始するリスクを少なくすること、すなわち「目先のことだけに対応するリスク」を峻別して議論する 必要はあるだろう。
 たとえばChristensen(1997)は、目先のことだけに対応しようとする(既存)企業が、場合によっては飛躍すらも避けるようになることを主張 したと、小生は理解している。つまり、「飛ばないことによるリスク削減」だが、これは「目先のことにだけ対応するリスク」と近いかもしれない。
 これから研究を進めるに当たり、目先のことだけに対応するリスクの削減と、飛躍するためのリスクの削減を分け、それらの関係を考察して いく必要があると考えている。

【コメント】 企業では将来のために1割ほど投資するという話がある。倉嶋氏は大きな投資していると思った。
A. 確かに、倉嶋氏は海外に行くなど、自らのために投資している。ただし、発表でも述べたように、国内のクライアントや 海外での人脈を確保することで、投資のための「原資」「時間」「機会」を確保していることも見逃してはならないと考える。   Q. 企業内における新技術を入れる際の抵抗のエピソードを教えていただきたい。 A. 武石彰・青島矢一・軽部大(2008) 「イノベーションの理由:大河内賞受賞事例にみる革新への 資源動員の正当化」(『組織科学』第42巻、第1号所収)などが参考になるのではないか。