第53回 2017年10月23日(月) 開催
クリエイティブ産業とコンテンツ産業
- 報告者
-
一橋大学 イノベーション研究センター 特任講師
木村めぐみ氏
- 日時
- 2017年10月23日(月) 19:00〜21:00
[講演要旨]
本発表では、クリエイティブ産業とコンテンツ産業という概念の背景にある考え方の差異を検討する。 一般的に、クリエイティブ産業とコンテンツ産業は、例えば、映画や音楽、ゲームなどが含まれるため、ほとんど同義の言葉として扱われることが多い。 しかしながら、その根本的な違いは、映画や音楽、ゲームなどの産業に対する期待が「創造」にあるのか、「消費」にあるのか、という点にある。
英国では、ブレア政権期以降、「創造的な英国(民)」というビジョン(Smith 1998)や戦略(DCMS, DIUS, BERR 2008)の元に、映画や音楽、ゲーム産業をめぐる政策・制度の改革を進めてきた。 ブラウン政権期になると、クリエイティブ産業は、イノベーションの推進者の代名詞と扱われるようにもなった。しかし、その理由は、単に、映画や音楽、ゲーム産業の経済成長が期待できるからではなかった。 「創造的な英国(民)」は、1990年代までに起きたSave British Scienceキャンペーンなどを踏まえた、科学者に関わるビジョンでもあった。
今後、複製技術や人工知能の進歩により、これまで知る・知らせるという行為がもたらしていた優位性が著しく低下していくことが予想されており、 クリエイティブ産業とは、そのような時代の競争に対応できる人やその集団のイメージとして創られた産業である。 つまり、映画や音楽、ゲーム産業は、そのイメージを伝える手段として選ばれた産業であり、実際に、これら分野の研究は、過去半世紀にわたって、創造という現象や、 その実現に向けた働きについての知識やその分析方法を積み重ねてきた。その内容は、1950年代から心理学で議論されてきた創造性についての研究成果とはかなり異なっている。 ブレア政権期以降の英国でも、(ある特定の人の断片的な視点で)創造的な人を定義、選択するのではなく、人のライフサイクルに合わせたビジョンや戦略を掲げ、 創造的な場としての英国を実現することによって、一人一人が創造的な時と場を選択できる仕組みづくりを進めていた。
このようなクリエイティブ産業という概念と、その背景にある思想を通じて、日本のコンテンツ産業を取り巻く様々な問題(特に働き方など)について参加者と議論してみたい。